つれづれマンガ日記 改

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公道最速理論 ~ 頭文字D

総合評価・・・3.84

 

レースを描かせれば当代随一の漫画家はやはり「しげの秀一」だろう。最近ではMFゴーストの流れから再度本作「頭文字D」に誘導される読者が増えたようだが、バリバリ伝説以来のファンとしては嬉しい限りである。

ちなみにバリバリ伝説は当ブログの中でも最高ランクの「不朽の名作」と評価しており、そのあたりのレビューはこちら。

mangadake.hatenablog.jp

 

というわけで本題の頭文字Dなわけだが、「ハチロク」という車種の名前を世界一有名にしたマンガであり、また、プロの世界ではなくあえて峠の走り屋としてストリートの戦いを目指すという観点からも非常にオリジナリティの高いレーシングマンガである事は間違いない。

世界一速い豆腐屋(1巻より引用)




特にストリートを目指すという事は、つまりプロ編を捨てているわけで、流れとしてどうしても単調になりがちなところを、関東の各都道府県別に攻略を進めるプロジェクトDという形式でストーリーラインを創った点も本作が長く続いた要因だろう。

また主人公の「藤原拓海」のキャラクターも魅力的で、80年代的な暴力的で危なっかしい「巨摩郡」という主人公とは別の角度で天才肌のキャラクターを産み出すことに成功している。

バリ伝とはまた違う天才肌(1巻より引用)


ただ、どうしても全48冊の長い物語と考えると難しい部分があり、バリバリ伝説を読んでしまっている分なおさら評価は悩ましいのである。具体的にマイナスと感じたのは大きく3つほどだろうか。


一つはやはりプロとは異なる公道最速にこだわったことの難しさである。プロが全てとは言わないが、やはり、社会的な評価や優勝といった明確なゴールがあるほうが作品としてのカタルシスがある事は否めない。
もちろん関東最強を目指すプロジェクトDという構成自体は良かったし、その流れにそって最終戦のエリアとなる神奈川まで読み進めることは苦痛ではないのだが、どうしてもストーリーの起伏が少なく感じた点は否めない。

二点目はオーラの表現である。
「速い奴は一目見ればわかる」それ自体は1巻から登場するコンセプトだし、後付けの設定ではないので問題ない。強者にはそういうオーラがあってしかるべきだからだ。しかし、その表現が後半に行くほど極端なのである。

後半さらに無茶になるオーラ表現(17巻より引用)


プロではなくストリートファイトという形式なのでなおさら相手の位置づけが良くわからないので、結果「オーラ」という独特な表現で強さが描かれていく事になるのは、どうにものれなかった。結果として、作中登場する様々なライバルキャラクター達が後半徐々に印象が薄くなってしまった点は否めない。強いてあげれば後半のキャラクター群の中では、おっさんなのに凄いという立ち位置で出てきた「ゴッドアーム」や「ゴッドフット」等は単なるあだ名以上にキャラが立っていた印象である。やはり、同じような峠のバトルを繰り返しながらライバルキャラクターを明確に立たせていくというのは大変な事なのだ。


最後の難点としては、やはりバリ伝よりも「絵の表現」ではなく「文字での説明」が増えている点だろうか。かつてのライバルキャラクター達が主人公の強さを語ってくれる展開自体は嫌いではないのだが、今作は特にそれが多かった。

もちろん、クルマに関するハイレベルなノウハウでもあるので絵によるレースの場面や描写以上に言葉で説明される事でわかりやすくなる部分も確かにあるのだが、それにしても本作はそのシーンが多すぎた印象である。

ただ、主人公が絶対的に勝ちそうな天才肌なのに、結末がどうなるかわからずついつい続きを読まされてしまうというヒキの強さの腕前は相変わらずで、その点だけはバリバリ伝説時代から変わらない。本当の意味で「ヒキ」が強い作品を描ける作者である。

というわけで色々批判も書いたが、結局のところ一度読み始めてしまうと続きが気になって最後まで読まされてしまうのだからやはり面白い作品なのだ。

ちなみにAmazonの最終巻レビューでは最後のバトル相手がいまいち評判が悪いようだが、個人的には嫌いではない。むしろ、48冊もの長編の最後の最後で主人公に対抗できるとすれば、あのキャラクター像しかないともいえる。

クルマに興味がない人でも読み始めると続きが気になってハマってしまう、不思議な魅力を持つ本作をレースジャンル嫌いの人にこそオススメしたい。