つれづれマンガ日記 改

マンガをテーマに、なんとなく感想。レビュー、おすすめ、名作、駄作、etc

薀蓄料理漫画 ~ てんまんアラカルト

総合評価・・・3.38



さて、当たり前のように面白いの水準を毎回上げていく天才「小林有吾」による傑作「フェルマーの料理」がドラマ化するという事で、これはもう当然としか言いようがないだろう。それぐらい、フェルマーの料理は昨今の料理マンガの中では頭一つ抜けている印象がある。強烈に面白いので是非読んでほしいが、ヒキが強すぎるので、一度読みだすと毎回続きが気になって精神と身体に悪いという、料理ジャンルとは思えない困った作品だ。

そして、そんな好調な「フェルマーの料理」の主人公の一人「朝倉海」の若き頃が描かれた作品が、打ち切りとなった過去作品「てんまんアラカルト」であり、本日のレビュー対象作品なのである。

ざっと二つの時代を比較してみると以下のような登場キャラクターが両作品には登場している。(それぞれ左がてんまんアラカルト、右がフェルマーの料理より引用)

 




とまぁ、こんな感じでわりと複数のキャラクターが二つの作品に登場している。ただ、そうはいっても最近まで「てんまんアラカルト」の事はそこまで重視していなかった。

登場人物こそ同じだが、ある種のスターシステムのようなもので、二作品はあくまで別の時間軸の物語であり、今までフェルマーの料理の中で、てんまんアラカルトの物語の内容に言及されるような場面はなかったからだ。

今までは・・・。

そう、そこが問題なのである。実はフェルマーの料理の最新4巻に収録の第14話で布袋から海に対して、ついに物語の根幹に関わる重要な発言が出てきたのである。「てんまんアラカルト」の主人公である「七瀬蒼司」に関してだ。

ここはまだ最新話のネタバレになるので引用は避けておくが、とにかくこの場面を読んだ読者の多くは確実に思ったはずだ。

あれ、てんまんアラカルト読まなきゃダメなの?と。

結論から書くと、まだ現時点では「てんまんアラカルト」未読でも「フェルマーの料理」は楽しめる内容になっている。

ただ、今後「朝倉海」の心の闇に焦点が当たれば当たるほど、てんまん時代のストーリーは外せない内容になってくるだろうとは予測される。

しかし困ったことがある。
それが、「てんまんアラカルト」という作品が強烈な打ち切り作品だという事なのだ。

というわけで前置きが非常に長くなったわけだが、「てんまんアラカルト」に関しての感想だ。

この作品は物語の根幹となる料理のロジックも面白いし、登場キャラクターも非常に良い。特に主人公となる「七瀬蒼司」と「渋谷天満」が魅力的である。この二人の主人公がどのような関係に育っていくのかという点で非常に興味深かった。

それに加えて、幻の天才料理人「渋谷克洋」や若き頃の天才「朝倉海」といったキャラ達の思惑も混在していく事で、作品の結末に対する期待感は非常に高まる作りになっている。

しかし、料理の薀蓄が非常に論理的な展開なのに対して、ストーリー展開があまりに非論理的すぎた。各キャラの持つ心の伏線は良いのだが、作品構成が強引すぎるのである。結果としてストーリー展開の強引さに読者がついていけなかったのだろう、あえなく打ち切りとなっている。ちなみに最終巻である4巻のラスト10ページ程度は、読めば読むほど謎が深まる作りになっており、作者の強烈な無念さが伝わってくる終わり方となっている。

本作の敗因だが、その後の「小林有吾」の連載作品の傾向でもわかるとおり、作者の得意領域が論理的な大人向けマンガだったのに対して、てんまんという作品はあまりに少年マンガすぎたという事に尽きる。

というわけでそんな前作の失敗から、少年マンガ感をある程度排除したことに加えて、大幅な画力の向上と作品構成を最大限に磨き上げた傑作がフェルマーの料理なのである。これが面白くないわけがない。

もちろん、これだけ休載を挟みながら連載している作品と、月間連載作品を比べることは出来ないという部分もあるが、無理に連載するぐらいなら休載しながら名作を創ろうという流れにマンガ社会も変わりつつあるので、今度こそは無念の打ち切りにならないように、朝倉海の心の物語も解き明かされることを期待したい。

最後に二作品を読む順番に関してだが、作品内の時間軸は前後するが、先にフェルマーの料理に手を出し、その魅力に取りつかれてから「てんまんアラカルト」の世界観や背景を読む、という順番が恐らく正解なのだろう。

昨今世の中に蔓延している、単に料理紹介してそれを美味しそうに食べるキャラを眺める、といったバラエティのひな壇芸人を眺めるような平凡なマンガとは一線を画する本気の料理マンガを是非手に取ってほしい。