つれづれマンガ日記 改

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るーみっくわーるど後期の傑作 ~ 境界のRINNE

総合評価・・・4.00



うる星やつらに始まり、めぞん一刻らんま1/2犬夜叉と超ヒット作しか生まないマンガの神様、高橋留美子御大の作品レビューとなると、さすがに書く側も気合が入るというもの。

本作、境界のRINNEは全40冊という事で犬夜叉に続くなかなかの長編だが、最後まですらすらと読み進められるあたり、流石の腕前である。

ただ、この面白さがどこまで狙って作られたのか、という点に関しては非常に難しい。というのも、この肩の力が抜けた面白さをどのように評価すべきかが非常に悩ましいのだ。

端的な感想としては、RINNEは非常に面白い作品だと思う。

登場キャラクターも魅力的だし、死神や霊といった設定も適当に見せながらもわかりやすいし、なによりシュールなギャグという世界観が終始一貫しているのが良い。

ただ、どうしても多くの読者が過去のうる星やらんまと本作を比較したくなるのもわかる。何より、このシュールなギャグが、狙って描かれているものなのか、それとも作者の年齢による変化なのかが全然見分けられないのだ。

若かりし頃の才気煥発の極みだった作者が描いた「うる星やつら」という世界が持つエネルギーはやはり凄まじかった。それは当然である。ただ、マンガの神様といっても一応人間なわけであり、20歳の時に描いた作品と、50歳になって描き始めた本作の持つエネルギー量が同じであるわけがないのだ。

ところがだ、このRINNEという作品はこのエネルギーの違いを抜群の技量で乗り越えているのである。それが、本作の持つ「肩の力の抜けたギャグ」なのだ。

ラムやジャリテンやしのぶや面堂が、あたるを中心に画面狭しと大暴れした時代とは対照的に、本作ではなんともシュールに、時に冷たい能面で登場人物たちが物語の震源地と距離を置くことで、乾いた笑いを適度に供給する事に成功している。この技術が圧倒的に優れているのである。円熟の極みといったところだろうか。

ただ、そんな凄い作品だが弱点がないかといえば、確かに気になる点はあるので、以下、そのあたりを記述していきたい。

ただし、らんまのレビューの時にも同じことを書いたが、これらは天才「高橋留美子」の作品だからこその厳しい批評であり、凡百の漫画家の作品であればまったく問題ないレベルである事は先に断っておく。

本作で大きく気になるのは以下の3点だろうか。

一つは序盤の主要キャラの弱さである。
死神と除霊を舞台にギャグマンガを描こうという試みが想定以上にはまってしまったせいでギャグマンガとしては非常に好調なスタートを切ったのだが、その分、序盤の登場キャラクターたちのアクの強さがいまひとつなのである。具体的には、「十文字翼」を筆頭に、「死神あげは」、「魔狭人」、といったキャラクター達がどうにも弱い。ここは正直、本作の序盤における人気に影響があった最大の課題と思われる。特に十文字の弱さが悩ましく、このキャラとりんねが、あたると面堂のような絡みが出来ていれば本作の面白さは全く異なるレベルに高まっていただろう。聖灰と日本刀がこれほど違うとは、やはりキャラクター造詣というのは難しい。

反面、中盤から登場する「架印」「四魔れんげ」「アネット先生」といったキャラクター群は非常にるーみっくわーるどらしい存在感でキャラが立ちまくっている。

特にれんげの存在は偉大で、このキャラクターが登場する14巻からRINNEは作品としての面白さのギアが一段上がったというのが率直な感想だろうか。

中盤のカギを握るれんげ登場の14巻

ちなみにうる星やつらでも連載の窮地を救った藤波竜之介親子の登場が15巻だったことを考えると、この「中盤においてクリティカルなキャラクターを産み出せる」あたりが、やはり高橋留美子の天才たる所以なのだろう。

さて悩ましい点の2点目だが、これは黒猫設定に関してだ。
各死神に対してそれぞれの黒猫がいるという設定はわかるのだが、黒猫デザインの限界なのか、どうしてもこの設定が面白さに繋がりきらなかった。このあたりは各個人の感覚による部分が大きいので、黒猫大好きな読者もいるかもしれないが、ブログ主としては黒猫関連回は、そこまで期待をもって読めなかったのは事実である。


そして最後の3点目、これはもういかんともしがたいのだが、軽めのシュールギャグを主軸に置いてしまったがために、あと一歩、りんね真宮桜のラブコメ感が弱いのである。このラブコメ感の弱さは、今までの各種の高橋留美子長編作品シリーズの中では、恐らく随一ではないだろうか。

ヒロインの真宮桜が淡白なキャラクターだという点と、りんね自身が自分の生活に精一杯なために色恋にうつつを抜かしていられないという背景とあいまって、なかなかこの二人の恋愛が盛り上がらないのである。とはいえ、最終40巻では少しの変化ではあるが二人の気持ちを綺麗に描けているし、最終ページの何とも言えない爽やかさは、やはりさすがの腕前というところなのだが。

といったあたりが本作の気になった点だろうか。逆にAmazonなどのレビューでよく見る本作への批判に関して、以下2点は明確に否定しておきたいので書いておく。

まず、1点目としてデッサンが狂ってる的な意見が多かったが、まったくそのような事はない。

むしろ、逆に凄まじい技術力を感じさせられるのが、ヒロインの女性がほぼ長髪の黒髪キャラクターで構成されているという点だろうか。具体的には、真宮桜、あげは、れんげ、アネットの4人である。これらのキャラが同時に動き回る場面において、小さなコマ割りの中で、違和感なくキャラをかき分けている技術は凄い。並のマンガ家であれば髪型、トーン、極端な瞳の書き込み、等で女性キャラをかき分けるのにも関わらず、少ない書き込みながらも違いをはっきりと描けるのだから、やはり天才の業である。

入り乱れるキャラの見事な書き分け(32巻より引用)



もう1点、最終40巻のエピソードが駆け足で打ち切り的といった意見があったが、その点も否定しておく。高橋留美子先生ほどの存在が、そのようなぬかった構成をつくるわけがない。この点は以下の35巻からの表紙に注目してもらえばわかるのだが、りんね真宮桜と六文のいつもの三人組に始まり、主要サブキャラクターの各エピローグ的な物語を各巻で収録し、最後はキッチリ40巻で二人を表紙に持ってきていることからも、先生の想定通りに結末まで仕上がっていることがわかるのである。

(きれいにサブキャラの結末を収束させていく35巻からの流れ)



最後にさりげない話題になるが、スイカとか雪だるまとか、その季節にあったキャラクターでデザインされたギャグストーリーはうる星やつらの頃からの伝統芸であり、30年以上昔の自身の作品に対してセルフオマージュを描けるような偉大な歴史を持つ作者の前にはもはやひれ伏すしかないのである。

イカも雪ダルマも先生の完璧なデザインでありキャラクターです。本当にありがとうございました。

完璧なデザイン(11巻18巻より引用)


というわけで、今なお連載を続ける漫画界の最高峰の描く作品は、今回も安心して手に取れる安定の面白さなのであった。