つれづれマンガ日記 改

マンガをテーマに、なんとなく感想。レビュー、おすすめ、名作、駄作、etc

千手観音症候群 ~ 田中雄一作品集 まちあわせ

総合評価・・・3.34

なぜか検索数が多い作品なので、数年ぶりに読み直して記事をリライト。
全体的に人間以外の生物と共生する社会があるとしたらの「if」の世界を粗削りながら描いている作品群だが、以下の作者巻末コメントにもあるように虫や巨獣のデザインには相当なこだわりがある事がわかる。
そのためグロ画像が多い作品なので、その手の描写が苦手な人はそっ閉じでお帰りください。

単行本巻末より引用









本作はグロテスクな異生物と人間が同居する混沌とした世界を描く短編集となり、収録作品は「害虫駆除局」「プリマーテス」「まちあわせ」「箱庭の巨獣」の4作品。





「害虫駆除局」

(害虫駆除局より引用)


世界に繁殖し始めた害虫と人間の対峙を描いている作品だが、とにもかくにも虫の描写へのこだわりが凄い。参考画像などはまだ良いほうで、画面狭しと虫が暴れる作品である。半面、虫好きの主人公「小野崎」の行動原理に理解しづらい部分が多く、どうしても設定と描きたいあらすじが先走ってしまっている印象。



「プリマーテス」

(プリマーテスより引用)

ホモ・サピエンスとは別の進化を遂げた異人類との共存社会を描いた作品。
害虫駆除局よりは主人公の行動原理が理解できる点が良いが、異人類同志における種族間の対立まで加わるため、初見では少しわかりづらいかもしれない。ただし、再読すれば短編としては綺麗に仕上がっている。


「まちあわせ」

(まちあわせより引用)


表題作であり、単行本の表紙にもなっている作品。前二作品のグロテスクで暗い雰囲気とは少し異なり、異形の世界を舞台にした男女の純愛を描いている。収録作品の中では、この作品が一番読者を選ばず楽しめる内容になっているだろう。


「箱庭の巨獣」

(箱庭の巨獣より引用)


発表当時に読んだ時にも感じたが、やはり収録作品の中ではこの作品が白眉。


強烈な書き込みに支えられた異形の巨獣とディストピアな世界観。そして途中の展開に加えて最後のオチまで隙がなく完成されている。SFだけでなく、人間の世界そのものが、この程度なのかもしれない、という既視感を感じ、考えさせられる作品である。


作品全編を通して異様なまでの書き込みと世界観は、まさにアフタヌーンらしさ満載であり、作者の執念を感じさせる。この手の作者は寡作なので、次の作品が読めるのは、もう少し先になるのだろう。と数年前に書いていたがやはり予想通りいまだ次回作には出会えていない状況である。

SF奇譚が好きな方におススメしたい。


f:id:mangadake:20171029115035p:plain