つれづれマンガ日記 改

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ライオスだった九井諒子 ~ ダンジョン飯

総合評価・・・4.52


2014年から連載開始されたダンジョン飯が全14冊でついに完結したのでレビュー。

さて最終の13巻と14巻は2冊同時刊行という事で、この奔放な作品がどのように完結するのかハラハラしていたが見事にまとめ上げてみせた作者の腕前に感服である。

よって、評価としても久しぶりに4.5以上で「不朽の名作」入りとした。

本ブログにはレビューした作品が840作ほどあるのだが、読んでいてもモチベーションと時間の都合でレビューが書けていない作品も当然たくさんあるわけで、それらも含めると少なく見積もっても2~3千作品以上は読んでいる事になる。

そんな中で「不朽の名作」と評価しているのは21作品のみなので上位1%の高評価となるわけだが久しぶりの高評価なので、そもそもどのような水準になると高評価になるのか、という点を含めて本ブログの作品評価項目である「ストーリー」「絵」「キャラ」「構成」「オリジナリティ」で見ていきたい。

以下ネタバレ必至なので、未読の方はしっかり読了してから本ブログを読む事。名作なのでネタバレせずに楽しみべき作品である。あと久しぶりに長文レビューなので暇がある人だけどうぞ。











 

 

さて、まずストーリーが面白い作品とはどのような作品だろうか。
これは最初から最後まで読んでいて破綻なく物語を楽しめる強いストーリーラインがあるか、という事である。

その点においては序盤の魔物を料理して食事するという導入は完璧だったが、中盤の狂乱の魔術師やカナリア隊の登場、そして最後の悪魔との決着まで綺麗にまとまっているものの情報過多の作品ではあった。

もちろん、このあたりの設定をあまり深堀りすると無駄な長期連載作品になってしまうという問題もあるので難しいのだが、少ない巻数に多くの情報を詰め込んだ結果、少しストーリーが雑然としてしまった点は否めないだろう。

しかし、それらの欠点はあるものの妹ファリンを救うというストーリーラインの強さは崩れておらず、なによりそのストーリーに本作のテーマである食を使ってラストを回収している点が素晴らしい。また、最終巻の宴が唐突な展開にならないように、8巻でしっかりと尺をとっているあたりが本作の満足度を高めているのだが、このあたりは構成の妙なので構成力の点で記載したい。

綺麗な構成力のお手本となる中盤の描写(8巻より引用)


もう一つ、ストーリーで高く評価したいのはラストの悪魔との決着だろうか。
何でも願いを叶えてくれる悪魔という存在は敵キャラとして出すにはあまりに手ごわいわけだが、これもやはり本作のメインテーマである食を軸にして回収している。

結局のところ「食」という人間の根本的な欲求を軸にしてすべてを終わらせたわけだから、これはやはり見事な腕前と評価するべきだろう。

最後まで食で締めた見事なストーリー(13巻より引用)






次に絵に関しての評価である。
マンガ作品の絵を評価するというのは案外難しい話で、単に写実的な技術だけを求めてしまうと絵の下手なマンガは全てダメという事になってしまうが絵が下手でも面白いマンガというのも存在するわけである。そこで本ブログでは絵の評価というのは作品とマッチしているかどうかで判断している。

例えば画力が物凄く向上した作者として平本アキラがわかりやすい例なのだが、「アゴなしゲンとオレ物語」をあの初期の下手な画力で描くのは全く問題ないが、「俺と悪魔のブルーズ」を初期の画力でやられたら台無しである。

似たような例として「DEATH NOTE」も同様である。原作者「大場つぐみ」の画力で描かれた「DEATH NOTE」のネームがあるのだが、正直、魅力激減だった。あの作品のもつ死神の説得力はやはり小畑健の神がかった画力に支えられているのである。

では振り返って本作はどうかというと、これは満点に近い。

魔物料理という誰も描いた事のない世界を魅力的に描いている時点で十分おつりがくる腕前である。また、主人公のトールマンをはじめとした、エルフ、ドワーフといった世界に住む各種族の特性を活かした描写や様々な魔物のデザインなどは本当に秀逸でこれこそ作品とマッチした画力と呼べるだろう。文句なしである。

魔物料理という謎の画力(2巻より引用)





さて3点目の評価項目はキャラクターである。
キャラクターの評価軸は大きく二つあって、登場するキャラクター群が魅力的かどうかと、それ以上に主人公が魅力的かどうかだ。

この手のダンジョンものの作品はやはり主人公パーティーのキャラクターに支えられているといっても過言ではない。その点、主人公4人のパーティーは非常に魅力的だ。

可愛らしく魅力的なパーティー(1巻より引用)


魔物好きという特異な設定のトールマン族の「ライオス」、魔物料理のお師匠様であるドワーフ族の「センシ」、エルフ族の「マルシル」に、ハーフフット族の「チルチャック」。
既存のファンタジー設定に照らし合わせた性格設定と描写とはいえ、やはりファンタジー王道の面白さを感じられる見事な組み合わせだった。

また第一話でパーティーから離脱するナマリやシュローといったキャラクターも再登場を果たしているが、恐らく連載当初はここまでの活躍は想定されていなかったと思われる。しかし、作品の爆発的な人気と共に再登場している割には物語に馴染んでいた点は見事だった。

登場時は名前すらなかった二人(1巻より引用)


中でも追加で登場したキャラクターの中で面白かったのはカブルーとカナリア隊のミスルン隊長だろう。カブルーはなかなか性格を捉えるのが難儀なキャラクターだったと思われ登場序盤こそ迷走したように見えるが、最終的にカナリア隊とセットにすることで物語の決着に欠かせないピースとなった。

物語にうまく収まった二人(9巻より引用)


そんな風に色々なキャラクターが入り混じっていく中で、それでも最後まで主人公ライオスの魔物好きという個性はずば抜けており、結局、その強さで物語を終わらせている。そういった意味でもキャラクターが良くできた作品だったといえるだろう。

最初から最後まで負けない主人公の個性(1巻より引用)





構成力という面に関しては、大きく3つだろうか。
爆発的な人気によって物語を途中から膨らませたと思われるがそれでも破綻しなかった点と、なんでも願いを叶える悪魔という最強の敵キャラクターを描きながらもキレイに主人公にそれを討伐させる事に成功したという点と、何よりそれらすべてを最後は食でまとめたという点。

特に食による最後の悪魔退治の描写は見事で、これは物語の途中で悪魔による欲望の咀嚼を描いているからこそ納得感をもって読み終えられるのである。このあたりの構成力の技術はやはり初期のショートショート時代に培われているものだろう。

構成の妙といえる悪魔の咀嚼描写(9巻、11巻より引用)

悪魔の呪いのオチも非常に良かった。本作らしい終わり方と言えるだろう。




そして最後の評価項目が「オリジナリティ」である。
これが本ブログでは一番重視している要素であり、総合評価として不朽の名作レベルになるかどうかはこの点にかかっている。

というのも、例えば部活マンガや不良マンガといったジャンルは既に誰かが描いた大きな舞台の上で魅力的なキャラクターと物語を動かすことになるわけで、作品としてはもちろん面白いわけだがオリジナリティという点では他に似た作品を読んだ事がある、という事になってしまう。

その意味で考えると本作はこのオリジナリティこそが完璧であり、なぜ九井諒子がライオスだったのか、という真意もここにある。

2012年ごろに作者の初期短編集となる「竜の学校は山の上」が発表されたが、その時の本ブログの評価は厳しかった。なぜなら、あまりに既存のRPGの世界観に乗っかりすぎていると感じたからだ。

ファンタジー世界への愛は物凄く伝わってきたが、それがショートショートの面白さには十分に反映されていなかった。しかし、その中でも竜の生態や研究を描いた表題作は秀逸で、そこには確かに高いオリジナリティがあった事を覚えていた。

次作の「ひきだしにテラリウム」を読んでもその点は変わらずだった。
画力こそ明らかに向上し作品の幅が広がっていたものの、手先の器用な作品だな、といった印象以上のものはなかった。相変わらず世界の細かな描写は失われていなかったものの、それが作品としての面白さにつながっているとは思えなかった。


既存のファンタジー世界の設定に乗っているだけではオリジナリティはならない。
いかに竜の生態や生殖を細かく設定できてもストーリーの面白さにつながらない。
各種の短編で作品を幅広く描ける画力があってもそれを活かす方向性がわからない。


そんな作者はどんな次回作を創作すればよいのか。
それらの疑問を全て勢いよくぶっ壊してくれたのが本作だったのである。


1巻を読んだときに、正直「お見事」としか言いようがなかった。

九井諒子は結局のところ、既存のファンタジー世界に対する愛も、異常なまでに設定にこだわる性分も、様々なものを描写できる画力や作風も全てを諦めずにごった煮にして新しいジャンルを創作したのである。まさに作者自身がなんでも咀嚼して自分の作品に取り込む悪食王だったわけだ。

そして、そんな作者の貪欲なまでのファンタジー世界への妄想と探求心が花開いたのが本作「ダンジョン飯」だったというわけである。これが面白くないわけがない。
素晴らしい傑作だった。



というわけで、思い返せばファンタジー世界の料理を美味しそうに感じたのは「深沢美潮」の「フォーチュン・クエスト」が始めてだったわけだが、それから約30年を経てついに魔物を食べるマンガを読む事になるとは夢にも思わなかった。小説では味わえなかった、絵を通した魔物料理の描写に感無量である。

これからアニメ化となると、さらにそれに色がついて音が流れてとなるわけだから、今から楽しみでならない。

とりあえず劇場版を見に行くので、この駄文を終わらせる必要があるのだが、最後に一つだけ。

完璧なラスト(14巻より引用)




この1コマは反則である。完璧すぎるオチに笑いと涙をもっていかれたので、やはり本作は名作と呼ぶにふさわしいのだ。