つれづれマンガ日記 改

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少年マンガの王道 ~ 金色のガッシュ

総合評価・・・4.00


近年では陰惨な展開から始まる復讐劇や恋愛がらみの青年向けの作品が、アニメの人気を入口にして若年層に読まれることが増えたわけだが、それでも、作品にはやはり読むべき適齢期というものがある気がしている。

その意味でかつての少年誌の読者層、特に小学生から中学生ぐらいが楽しめるという意味において最高の王道少年マンガに位置づけられるのがやはり本作「金色のガッシュ」ではないだろうか。

作者の「雷句誠」が小学館と訴訟に発展したため別の意味でも有名になってしまった本作だが、あまりにストレートに喜怒哀楽を描いた名作であり子供時代にこの作品を読んだ人の多くの記憶に残ったのも頷ける話で、別出版社からの完全版や続編の2などまでが発売されることになった流れは当然といえる結果だった。

そんな名作を以下ネタバレありで振り返ることにする。なお、画像引用の巻数表記は完全版から。名作なので未読の方はお帰りください。














さて、本作自体は冒険活劇系という少年読者が最も好きなジャンルに属するわけで、そこに加えて魔界の王を決める100人の子供たちの戦いという設定も良いし、登場する様々なキャラデザインや魔法等、子供心をくすぐる要素は多分にあった。

しかし、面白いマンガというのは単にそういった要素だけではないのだ。

本作が何よりも圧倒的だったのはやはり作者の感情描写の巧みさではないだろうか。その片鱗はすでに第一話から発揮されている。

空からガッシュが飛んでくるというバカみたいな導入で笑いを描き、そして冷めきった高嶺清麿というキャラクター像を描きながら読者をひきつけ、天才ゆえに周囲から疎まれている清麿の状況に対してガッシュが怒りの感情を爆発させる。特に、ガッシュが涙ながらに清麿を擁護する場面は本作を読んだ読者なら誰もが目頭を熱くした名場面だろう。

圧倒的感情表現力(1話より引用)


よくよく見てみると、このあたりの一連の流れは決して絵が上手いわけではない。むしろ下手な部類にすら入るかもしれない画力である。しかし、そんな画力が云々という話以上に、このマンガからは人間の持つ強い感情が伝わってくるのだ。

これこそが金色のガッシュが多くの少年の心に残る名作になった要因なのである。感情表現の鬼である藤田和日郎を師匠に持つだけの事はある。


また、そんな魅力的な主人公ペアに負けないぐらい他の登場キャラクター群も素晴らしかった。

ブラゴとシェリーは序盤の登場から中盤の要となるゾフィスとの闘い、そして最後の決着までついに格を落とすことなく物語を駆け抜けた。少年マンガで序盤に登場したライバルキャラクターが最後までかませ役に回らないというのは非常に珍しいケースであり、作者のこのキャラクターに対する深い愛情がうかがえる。この二人が最後まで活躍するからこそ、本作のラストはあれほど綺麗に締まるのである。

最後まで活躍するライバル(1巻より引用)



そのほか、ガッシュの戦いをサポートした数々の味方キャラクター達も素晴らしい。
ティオと大海恵、キャンチョメとフォルゴレ、ウマゴンとサンビーム、ウォンレイとリィエン等々、数多くの印象深いキャラクターが登場している。

中でもキャンチョメとフォルゴレのコンビは独特で、こんなおバカなキャラクターが最終戦まで活躍するマンガは他にはなく、そしてだからこそ、最終章のフォルゴレの見開きには確実に泣かされてしまうのだ。

こんなおバカキャラに泣かされるとは・・・(15巻より引用)


33巻もの長編ではあるが、全体的なストーリー展開も大きな破綻はなく、ファウード編は多少間延びがあるものの、ゼオンとの決着という観点に加えて、やはりバリーの存在がファウード編の魅力を高めている。このコマの次のページの一枚絵は圧巻である。

感涙必至の名場面(12巻より引用)




終戦のクリア編は多少今までの展開と異なり急なラスボスの乱入に戸惑う部分はあるものの、金色のガッシュというタイトルの伏線を回収する意味で避けられない展開であり、このラストは号泣必至である。

涙腺崩壊の王道展開(16巻より引用)





ちなみに本作の唯一といっていい弱点が作品構成で、人気が出すぎてしまった作品の宿命でもあるのだが、中だるみする回や、似たようなバトルが続く回、謎のお笑い回を挟んで作品に無駄がある点だろうか。

これはもう2000年代当時の少年誌の慣習を考えると避けがたい部分があるのだが、そこがなければ本作はおよそ隙が無い完璧な作品だったといえるだろう。

ともあれ、読者の笑いや涙といった難しい感情表現を一瞬で動かす作者のマンガの才能には凄まじいものがあり、泣ける名場面が多い、という点においては本作を超えられる作品は少ないのである。


なお、最後に完全版との違いとしては完全版には巻末に「ガッシュカフェ」が収録されているという点なので、ガッシュカフェを読んでみたい方には完全版をおススメしたい。書籍版だと版が大きくて迫力が凄い点もオススメできる。

オトナになってから読んでしまうと、無駄な構成や引き延ばしや下ネタ的なギャグ等を十分に楽しめない恐れがあるので、子供の頃にこそ読む事をおススメしたい王道の少年マンガである。