総合評価・・・3.48
マンガの中にはたまに「あー、あの最終回どうなったんだっけ、なんか凄い良い場面があったのだけは覚えてるんだけど・・・」みたいな感情を掻き立てられて、ついつい再読する作品というものがある。
というわけで、SHAMAN KING=通称「マンキン」の完全版ラストが、どうにも読みたくなって数年ぶりに再読。
結果、なんとかなってました。
しかし完全版27冊を通しで読むと、スッキリする部分とモヤモヤする部分が混在するわけで、そのあたり含めて、未読の方や根強いファンの方は禁止の辛口ネタバレレビューである。
さて恐らく2000年代における、もっとも有名な打ち切り最終回を遂げた本作なわけだが、その、あまりに悲惨な「みかん」の絵とシュールすぎるプリンセスハオの存在があまりに痛々しかったために、完全版で救済されて、作者「武井宏之」としてはなんとかなったわけである。
しかし、連載当時はここで終わるなんて許されるのかと思わされる打ち切りっぷりだった本作だが、改めて読み返してみると残念ながら編集部の気持ちもわからないでもない。
あまりに作品として逆張りがすぎるのだ。「そういうとこだぞ」と言わざるを得ない。
振り返って1巻からの「麻倉葉」と「まん太」の出会いやシャーマンの世界観は非常に秀逸。竜の存在もキャラクターが立っているし、面白い新連載の予感満載である。
加えて2巻登場のヒロイン「恐山アンナ」のキャラクター造詣が本当に素晴らしく、ここでマンキンは人気の波に乗ったといえるだろう。
その後、道蓮の存在も良い感じに昇華されてシャーマンファイトを目指す旅や、ラスボス「ハオ」の君臨っぷりも作品に良い緊張感を与えることになった。
しかし問題となるのは、その後のトーナメント戦あたりからだろうか。
もちろん、ハオの125万という巫力問題も、倒せないラスボスとしてその後の作品展開を悩ませるわけだが、それ以上に課題になったのがいわゆる「因果応報」「やったらやり返される」の象徴としての、メイデンちゃんの存在なわけである。
実際問題、シャマシュによる虐殺によってシャーマンキングのバトルは他作品とは一味違う読みごたえになったわけだが、残念ながら、主人公「麻倉葉」がそれを乗り越える哲学をまだ持ち合わせていなかった。
「なんとかなる」と「楽をしたい」という哲学でゆるく乗り越えてきた主人公は、蓮の復活のために、結果としてシャーマンファイトを辞退することになってしまう。
そして、作品は問題の「恐山ル・ヴォワール」編へ。
これがまさにマンキンのポイント・オブ・ノーリターンで、圧倒的に独自色を高めて、
同時にメジャー少年漫画を期待した読者層を捨てたタイミングだといえよう。
アンナファンとしてはこのシリーズは最高だし、内容的にも非常に重要で、主人公二人への感情移入度を高める意味でも、必須のストーリーな事は理解できる。
ただ、話の本編自体は「蓮の復活や、葉のシャーマンファイト辞退はどうなったの?」みたいな本筋を見事に放置して展開しているわけだから、ここで見限る読者がいたとしても仕方がなかっただろう。
加えて、構成上の情報量が多すぎるのも問題で、ここから話が本筋に戻ると思いきや、
第三勢力のガンダーラに加えて、ゴーレムとチョコラブの因縁を急遽突っ込んでくる自由奔放さ。正直、さすがに読みづらい。
その後は、メイデンちゃんとラキストやメガネの過去をいじってみたり、シャーマンファイトは一次トーナメントを切り抜けるまでといった強引な設定変更や5人の戦士といった追加情報まで投げ込んで、ある意味やりたい放題である。
なので客観的に評価して、このあたりが連載漫画としての限界で、コアなファンでないとついていけなくなったであろう打ち切り展開も、まぁ仕方なかったのだろう。
そして、2004年の打ち切りから数年後。
さすがに、あの長期連載に対して投げっぱなしのみかんエンドはいかがなものか、という事で満を持して登場したのが完全版だったわけだ。
この完全版で描き下ろしを加えられたラストの物語は流石に素晴らしい。
物語を完結させたい、という作者の渾身の気合が伝わってくる筆致である。
また、良くも悪くも無理に引き延ばすことができない状況になったため、以前までの奔放すぎる情報の増加と構成の問題が解消されており、その意味でも描き下ろしの追加エピソード群は読みやすかった。
ラストのグレートスピリット内での「ハオ」と「葉」の兄弟の対話は本当に素晴らしく、生と死をテーマにした不思議な作品と霊と共に生きた魅力的な主人公だからこそできた展開と言えるだろう。
完全版22巻から収録される「ふんばりの詩」も最終27巻のラストとつながっており、無事完結を迎えられて作者も読者も一安心の結末だった。
さて作品として総括してみると、もちろん、当時の少年漫画界で問題になっていた戦闘能力の数値化やトーナメント戦や終わることのないバトル展開といった内容に、主人公「麻倉葉」のなんとかなるさ、の精神が一石を投じていた点はよかったのだが、
死んだり生き返ったり、トーナメントからリタイアしてみたり戻ってみたり、あまつさえ、最後は、トーナメントさえ実はいりませんでした的な十司祭とのラストへの展開はいかがなものかと。
細かく検証するのがつらくなるぐらい、過去に自分が書いてしまった展開や伏線回収に苦労しているのが伝わるし、どんどん逆張りしていく中での迷走を感じさせられる作品である。
ただ、それらのマイナス点を全て補ってなお、やっぱり主人公「葉」と「アンナ」の関係は最高だし、結局のところ、この二人の魅力に支えられて読み続けてしまったわけだ。
ただし、これだけは言わせてほしい。
最終巻、今までのキャラクターを総出で登場させて、読者の期待値をあおりまくり、あのハオ様にまで期待させておいて、
この流れから、まさかの逆張り・・・
これだけはないわー
どう考えてもない
まさに「そういうとこだぞ!」としか言いようがない。
あそこでマタムネを素直に出してくれたら、今までのグダグダな伏線投げっぱなし展開
全てを許せるほどに感動できたんだがなぁ・・・個人的に成仏できない展開であった。
ちなみに色々続編が出ているのは知っているが、そちらのレビューはまぁ、万が一にでも機会があれば。