総合評価・・・3.78
デビューから圧倒的に名作を作り続けて、かつ、連載のたびに時代に合わせたキャラ作りができる作者というのは、やはり天才であって、それが「河原和音」なのである。
というわけで、部活少女が恋愛にデビューするという斬新な設定で一世を風靡した「高校デビュー」の登場が2004年だったわけだが、その12年後の2016年に発表された、ある意味セルフオマージュともいえる作品「素敵な彼氏」までを一気に読みなおしたので再レビュー。
まずは高校デビューだが、やはりこの第一話は鮮烈。
2004年といえば、90年代よりは恋愛少女漫画に変化球な作品が増えてきた印象だが、それにしても、この部活少女の主人公「晴菜」が恋愛にデビューするというスタイルは見事だったし、当時の鉄板ともいえるクール系男子キャラ「ヨウ」との組み合わせは、おそらく作者の想像以上に動かしやすいキャラ設定だったろう。
今も昔も名作と呼ばれるラブコメ作品の王道は強烈な主人公カップル。これ以外はないのである。その意味で晴菜とヨウの二人には、やはりその魅力があったのだ。
そしてその後のストーリー展開も見事。1巻から2巻で麻美とフミ君で揺さぶりをかけてから3巻での告白展開。展開の速さもすごいが、通常カップル成立すると面白さが減少することが多い中、ますます面白さに勢いがつくのがまた凄い。
中でも、6巻の前カノ「栗原まこと」がらみのエピソードは秀逸で、特に晴菜のどこが好きなのかをヨウが最後に聞かれるシーンは、読者の記憶に残る名シーンである。
そして、その後に続く17歳の誕生日イベントや大運動会。この辺りの中盤以降からのヨウは、徐々に晴菜のひたすら明るい性格が伝播しており、優しく物事を受け止める素敵な彼氏になっていくのである。やはり明るいは正義だ。
そんなわけで、人気絶頂の13冊で連載終了した本作は当然読者人気も高く、アンコールにこたえて完結後の遠恋編も2冊続き、全15冊で見事に完結したわけである。
その後の作者は、俺物語という少女漫画界における新たな発明をした後に、青空エールという圧倒的な本格青春群像劇を描いていたわけだが、このタイミングで「素敵な彼氏」という作品で再び少女漫画の主戦場となるラブコメジャンルに踏み込んでくるとは正直、予想していなかった。
しかも、今度は下手すれば読者に嫌われかねない天然ゆるふわ系の彼女と、描写的に明らかなイケメンという立ち位置ではない彼氏。どうなるんだこれは、と思いながら連載を読み始めたわけだが、まぁ・・・
やっぱり面白いんですわ
もちろん、現代の若く勢いのある恋愛少女マンガ群に比べてしまうと、多少、レトロな印象はあるかもしれない。けれども、そもそも恋愛マンガの流儀を80年から90年代にかけて河原和音作品に叩き込まれてしまっているブログ主としては、このテンポと展開が面白くて仕方がないのである。特に主人公カップル二人の魅力が素晴らしくて「ののかカワイー」とか「桐山君にほれた」といった、脳死している感想しか浮かばないまま、ついつい最後まで読まされてしまったのだ。
しかし、そんな中でも多少知能をもとに戻して真面目にマンガレビューするとすれば、本作に感じる凄さはやはり、全体的な作品レベルの向上であろうか。
特にキャラクター描写が抜群で、主人公「小桜ののか」の口元の表現と、「桐山君」の表情を崩さない中で優しさを感じさせる目元の描写はちょっと凄い。これは簡単なように見えて、真似できない技である。
また、モブ的な描写の可愛らしさや、恋愛に浮かれるヒロインの描かれ方も以前よりさらにパワーアップしていて、本当にデビュー30年経過ですか、先生?と思わずにはいられない。
特に第1話で唐突に訪れるファーストキスを見事に回収してくれた3巻は素晴らしく、イタズラにはじまるKissこそが別冊マーガレットの伝説なわけで、これで、本作の優勝が決まったといえるだろう。
この手の序盤のやきもき展開や、中盤の横やり展開とかは、いつかどこかで読んだ事があるはずな少女マンガなのに、それでも、二人の続きが気になってページをめくる指を止められない、それこそが、王道少女マンガの醍醐味なのである。
周りの登場キャラクターも無駄に多くは登場させず、特にエリハの存在感が凄く軽やかで、ここぞという時に良い動きをしてくれるのが心地よい。
最終14巻ではしっかり現代的な二人のオトナな恋愛関係も描いてくれて、このあたりも含めてマンガの時間軸が2000年代からは変わったのだなぁと感じさせられたわけだ。
とまぁ色々書いたわけだが、結局は読み終わってみれば、彼女彼氏の二人の甘い思い出が作品の全てであり、最初に書いた通り、この主人公カップルの強さと魅力こそが「イタズラなKiss」から始まった別冊マーガレットにおけるラブコメ作品の王道なのだろう。
甘すぎるぐらいに甘い恋愛で心を癒されたい人におススメの作品である。
過去の河原和音作品のレビューはこちら。mangadake.hatenablog.jp