総合評価・・・4.58
高橋留美子御大の名声を決定的にした、もはや説明不要の不動の名作。
この傑作が再びアニメ化ということで久しぶりに全巻読み直しての再レビューである。
まず1巻を読み直してみると、あらためて、作者見解にある通りラムちゃんが一度だけのヒロインであり、諸星あたるこそが「うる星やつら」の主人公である事が良くわかる構成になっている。
「世界で一番女好き」な主人公という、以後のハーレム漫画の主人公が束になっても敵わないオリジナリティがこのキャラクターには秘められている。
その後は凶運の諸星あたるとしのぶを中心としたキャラクターのドタバタコメディが続くわけだが、うる星やつらを歴史的傑作に押し上げた要因の一つが、3巻の「トラブルは舞い降りた!!」で登場する永遠のライバル「面堂終太郎」の存在だろう。
このライバルキャラクターの存在なくして、うる星やつらは語れない。
それぐらい面堂登場前後では作品としての面白さが違うのである。
加えて3巻に収録される「ツノる思いが地獄をまねく」や「君まてども」といったラムをヒロインに据えたラブストーリーが始まるのもこの頃であり、3巻は序盤のターニングポイントといえる1冊である。
そして4巻には、過去のアニメにおいて人気投票一位となった大傑作「君去りし後」が登場となり、しのぶがヒロインだった時代は終わりを告げて、ラムちゃんがヒロインの中心となり、その後の長いうる星やつらのスタイルとなっていくわけである。
そして、ラムちゃんがクラスに転校してきたり、蘭ちゃん、ジャリテンといった名キャラクターが揃ってくる中で温泉マークも本領を発揮しだしてくると、いよいよ学園ドタバタコメディとしての本領発揮である。
特に11巻の買い食い大戦争は屈指の名作で、これ以上ない軽快なテンションで各キャラクターが暴れまわる。この時に登場した友引商店街の各店舗は、その後のアニメ版や設定資料集などでも登場してくる重要な記号だ。
そして、12巻から14巻頃までの中盤の全盛期は凄い。すべての話の完成度が高すぎる。
しかし流石の天才にも疲労が出てくるのもこの頃で、この親子が登場しなかったらうる星はもっと早く終了していたと作者に言わしめた竜之介親子がついに15巻で登場する。
実際15巻は一話を除いてほぼすべて竜之介メイン回と言えるような内容であり、今まで様々なゲストキャラクターが登場しても3回程度の登場が限度だったことを考えると、いかにこの藤波親子がキャラクターとして動かしやすかったのかがよくわかる。
ここまでキャラクターが揃ってくると、あとは縦横無尽にキャラクターが駆け回りながら、時にSF、時にコメディと圧倒的な面白さで中盤のうる星やつらは構成されていくのである。
特に、ミス友引や水泳大会等、魅力的なキャラクターが動き回るだけで面白かったのだから、この時代のうる星のクオリティは神がかっていると言えよう。
しかし、作品にはいつかは終わりが来るもの。
ドタバタ学園コメディとしての最盛期に作者自身が終わりを感じ始めているのが27巻だろうか。旧版の単行本のセピア色の表紙からは、そんな印象を受ける。
以降28巻からは徐々に単なるギャグコメディから、ラブコメ要素を強め、今までの登場キャラクターたちの恋愛模様に終止符をうつような展開が33巻まで続いていくのである。
そして、その一連の流れの中で恐らく作者としても絶対に外せなかったキャラクターこそが「しのぶ」の存在なのである。
彼女こそが真のヒロインだったことは2巻の「系図」でも明らかだったのに、ラムを中心とした物語に代わってしまったために回収されなかった伏線。
この因縁に決着をつけるのが31巻の因幡君の登場であり、あたるとラムの運命や、しのぶの未来に対して、見事なまでのアンサーを見せつけるのだった。
このあたりの終盤のクオリティの高さでも、もう十分最高なのだが、最終34巻に至っては1冊まるごと使って、見事に作品を完結させているのだから、もう天才としか言いようがない。
それぐらい、とにもかくにも34巻のクオリティは凄い。
第1巻で持ってきた鬼ごっこという設定を使って、これ以上綺麗に作品を回収できる作者が他にいるだろうか?いやいない、と断言したい。
なお、余談だがうる星やつらの劇場版作品は全てオリジナル作品なのだが、「完結編」だけは34巻をかなり忠実に再現した作品になっており、それで良かったと感じられる完結編の名にふさわしい作品である。
総じて基本一話完結という大変に苦しい連載スタイルを守り、約10年に渡り創作を続けたのにもかかわらず、同時期にめぞん一刻も連載していたのだから、もはやひれ伏すしかない。
「身の回りにいたら迷惑そうだなぁと思うキャラクターを集めた」
という作者のコメントどおり、
奇抜なキャラクターと軽妙なストーリーが織り成すSFコメディ大作は、
今読み返してもなお、全く色あせることのない近代マンガ史に残る大傑作である。
最後に鬼っ子のビューティフル・ドリーマーを張っておく。
原作者には嫌われたが、これはこれで日本のアニメ史の歴史に燦然と名を遺した傑作であり、多くの観客の心に残った作品だろう。