つれづれマンガ日記 改

マンガをテーマに、なんとなく感想。レビュー、おすすめ、名作、駄作、etc

俺節

久しぶりに編集王を読み返して、
完全に「土田世紀」の世界にやられたので、何作かレビューを。
まずは、初期の代表作「俺節」である。

この作者の画風で演歌の世界を描くという時点で、
既に面白い事は確定しているわけだが、
青森の片田舎から、単身上京した主人公が、
新宿の場末の酒場で流しとして暮らしていく序盤の世界観は凄まじく、
平成の現在では少し隔世の感がある。

しかし、それでも厳しい生活を歯を食いしばって耐え抜く
男の人生という側面は今も昔も変わらず、
この辺りを描かせたら、マンガ界随一だろう。

ただ本作の評価が非常に難しいのは、
物語の構成として途中からテーマが少しずつ変わり、
最後には「愛」に着地している点である。

愛の物語としての側面も良いのだが、
男の演歌と人生の物語という側面を期待して読み続けていると
少しばかり後半の展開に物足りなさを感じてしまうわけだ。

そして、そんな本作とは対照的に
最後までテーマを変えずに描き切れた作品が、
同じ月を見ている」だと個人的には捉えている。

ただ、何はともあれこの頃から、
濃すぎるほどの絞りだすような表情を描かせたら、
抜群の腕前を持っていたことは間違いない。

返す返すも惜しい才能を失くしたものである。

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俺節(9) (ビッグコミックス)

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