「土田世紀」についてのレビューも本日で一旦、終了である。
最後は満を持して「編集王」について触れたい。
これはもう、文句なしに作者の最高傑作と叫びたい作品なのだが、
それは偏に作品が粗削りだからである。
この作品より洗練されたマンガは数多くあるが、
作中いくつも描かれる不器用な男の生き様を、
これほどまでにストレートにぶつけにくる作品は他にはない。
全てのキャラクターが悩み苦しみもがく、
その生きざまを土田世紀は、独特の濃い画風で紙の上に描くのである。
ボクサーくずれの主人公「カンパチ」が、
出版業界に熱い気持ちで殴り込む序盤も面白いし、
アル中の大御所マンガ家「マンボ好塚」編も面白い。
衰退する文芸誌「絶叫」編も熱い物語だし、
エロで業界を変えようとする「明治編」も秀逸である。
副編集長の「宮」がマンガと家族の二択を迫られる場面は、
マンガという生業の業の深さを感じさせられる。
しかし中でも特筆すべきは、
やはり若き頃の編集者「疎井」と
「マンボ好塚」のアシスタントを務めていた「仙台」の物語を描く、
ヤングシャウト創刊期の物語だろう。
新連載を立ち上げる為に、二人三脚で全力を尽くす二人の前に
立ちはだかる社会の壁。
そして、若き編集者時代の疎井がマンガに夢を持つことをやめ、
新人マンガ家「仙台」を見限った時。
「こんな僕だって生きてるんです。生きてマンガ描いているんです!!」
数多くのマンガ作品を読んできたが、
このシーンの見開きから、宮沢賢治の詩で締めくくられる
最終ページまでの流れは、生涯忘れられない名場面の一つである。
これほどまでに、人間の表情を巧みに切り取れるマンガ家が、
他にどれだけいるだろうか。そんな不世出の才能が失われてしまった事が悲しい。
未読の方は、必ず抑えるべき必読の傑作である。