つれづれマンガ日記 改

マンガをテーマに、なんとなく感想。レビュー、おすすめ、名作、駄作、etc

偽札のロマン ~ ハイパーインフレーション

総合評価・・・3.60


最近は社会全体がお金大好きなので当然にマンガ業界もこのジャンルに目を向ける事になり株式、FX、不動産と様々な経済ジャンルのマンガが増えてきたわけだが、その中でも圧倒的なオリジナリティを誇った怪作が本作「ハイパーインフレーション」である。

主人公「ルーク」は神との契約により生殖能力を失った代償として「体からいくらでも偽札を吐き出せるようになる」という不思議な力を得ることになるのだが、この一見バカバカしい能力が経済とインフレをわかりやすく物語に落とし込むための非常に巧妙なギミックになっている点が圧倒的に凄いのだ。

射精行為のように偽札を産むルーク(1巻より引用)


経済やインフレといった難しいテーマは普通に考えて少年マンガの土台にはまったくそぐわないのだが、それらの複雑さをこの「偽札を産み出す」という武器一つで最後まで描き切ったのだから、作者「住吉九」が本作を創るにあたってどれだけ構成を練ったのか、その苦労に思いを馳せずにはいられない。



また周りを囲むキャラクター達の濃さも素晴らしい。特に第一話から登場する金を儲けることが全ての商人「グレシャム」の存在が最高で、こんなに下劣で悪役ムーブのキャラが最後まで活躍するマンガというのも珍しいのではないだろうか。このあたりも本作が少年マンガではなく経済マンガである事を主軸に描いたからこその結果だろう。

名悪役グレシャム(6巻より引用)





しかし本作の面白さは序盤の勢い以上に中盤から始まる偽札造りの工程にある。最終巻の巻末カバーの作者あとがきにも書かれていたが、とにかく作者の偽札造りに対する熱量が凄まじいのだ。このレベルで偽札造りの情報を披露したマンガを私は知らない。

圧倒的偽札造りの情報量(4巻より引用)




そして偽札の力で自身の民族「ガブール族」の国を設立しようと目論む主人公サイドと偽札による世界経済の混乱を回避するために対立するヴィクトニア帝国政府との決着が描かれる最終6巻の展開は圧巻である。

この辺りはネタバレしてはもったいないので是非実際に読んでほしい内容なのだが、タイトルの伏線回収も含めて綺麗に完結している。この難しいテーマをよく綺麗に描き切ったものだと感心させられる作品だった。


もちろん経済用語というのは非常に難しい世界なので説明がくどくなりすぎている部分もあるのだが、それでもエンターテイメントと経済知識を何とか両立させようとした作者の努力を称賛したい名作である。