総合評価・・・3.58
久しぶりに再読したので過去記事リライト
本作は連載開始が1998年という古い作品なわけだが、改めて読み直してみると、その作品づくりにおけるコストの高さに心底驚かされた。
主人公の「大沢公」は、ベトナム大使の「倉木和也」に雇われた公邸料理である。
そして倉木が目指す「食による外交」を実現する為に、各国外交官や首脳陣に数々の料理をふるまい、料理による感動で彼らの心を動かし様々な外交を実現していく。
端的に書けばそんな物語なのだが、文字で書くのは簡単だが実際にマンガでこの外交官付きの公邸料理人という設定を描くとなるとかなりの専門知識と労力が求められるわけで、同時代のマンガを振り返ってもちょっと類を見ない高コストな作品である。
ネット普及も不十分なあの時代に「公邸料理人」という存在に対する情報源はほぼ存在しておらず、このあたりは原作者の「西村ミツル」が元公邸料理人でなければ、絶対に描けなかったキャラクター像だろう。
そして基本が外交を舞台にする物語のために、ある程度リアルタイムでその時代における政治問題なども発信しており、台湾前総統の来日、元ペルー大統領の亡命、北朝鮮の問題等々、専門知識を要するエピソードも多い。
また、出てくる料理も海外のVIPをもてなす最高級の料理となるため、料理の画力も激しく高い。
政治、海外情勢、料理といった様々な情報を含んだ本作は、なまなかのマンガ家では描くことはできないわけで、昨今の原作者がついている意味が見出しづらい作品と異なり、まさに原作者付きのマンガと呼ぶに相応しい傑作である。
ただし、それだけだと単なるお堅いマンガになってしまうわけで、今のようにマンガのすそ野が広がっている時代ではないので娯楽として愛される要素も必要だ。
その意味でベトナム編の「ホア」や、弟子となる「青柳愛」といったヒロインキャラが本作を支えることで長期連載に繋がったといえるだろう。
全25冊の物語全体に大きなストーリーラインがあるわけではないが、中でも印象に残るエピソードとしては第一部とも呼べるベトナム編のラストを描いた13巻は必読である。
また主人公が世界最高峰の料理の舞台に立ち日仏米の首脳陣をもてなす、18巻収録の「エリゼ宮からの招待状」も起承転結が綺麗な名エピソードである。
しかし、なんといっても本作の読後感を高めてくれるのはやはり25巻収録の最終章のエピソードだろう。公邸料理人である大沢と外交官である倉木という立場の違う二人のプロフェッショナルの心の交流が描かれる最終話は、まさに長編のラストに相応しい出来栄えである。
本作の原作者西村ミツルは、他のマンガ家と組んで料理をベースにしたマンガを描いているわけだが、作画担当のかわすみひろしはこれ以降長期連載作品は描いていない。
もう一度本作のコンビによる作品を見てみたいものだ。
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