勿体ない作品である。
原作は「家裁の人」を描いた法廷マンガの名手「毛利甚八」と、
作画は「大使閣下の料理人」を描いた「かわすみひろし」のコンビであり、
それなりに名作を描いた二人なわけだが、
この二人を組み合わせようと思った編集者の意図がわからない。
「かわすみひろし」は確かに多国籍の老若男女が描けるマンガ家だが、
どちらかというと女性キャラクターの可愛い描写が得意で、
いかにもマンガ的な作風の作者である。
対して「毛利甚八」は本格派の法廷マンガ家で、
その白眉が「家裁の人」になるわけである。
「魚戸おさむ」の描く、あの何とも地味で、
それでいて清廉とした作風があったからこそ、
少年法の世界を面白く描けていた家裁に対して、
本作は序盤では「かわすみひろし」色が強く、
いかにもマンガ的に女性ヒロインが動き回るのに、
最終巻の死刑制度を問う論点に関しては、
ひたすら重苦しく、まったく作風と内容が合わなくなってしまっている。
裁判員という非常に面白い制度を取り上げた
画期的な論点だっただけに、全5冊は非常に勿体ない。
以上のように書いてきたが、作品として面白くないわけではなく、
良い点はたくさんある。
ただ、もっとマンガ史に残る作品になりえたのではないか、
というのが正直な感想だ。
最終巻の本格的な法廷闘争を、
「魚戸おさむ」の絵で読んでいたらもっと面白かっただろうなぁと、
夢想してしまったが、原作者亡き後にはそれも叶わぬ夢である。残念。