総合評価・・・3.90
チャンピオン連載時の作品発表が1995年にも関わらず、いまだに語り継がれる主人公「秋山醤」を産み出した異色の傑作、それが「鉄鍋のジャン!」だ。
本作はそのキャラクター人気から続編やスピンオフも幅広く展開しており、主軸としては無印版が27冊、その後の続きを描いた「鉄鍋のジャン!R」が10冊、そして秋山の息子が主人公となる「鉄鍋のジャン!!2nd」の7冊が描かれており、まさに作者「西条真二」の代表作といえる作品である。
オリジナル版の27冊がなかなか入手しづらかったのでしばらく再読できていなかったが、今回タイミングよく全シリーズを入荷できたので、ひさしぶりに全編通して再読してレビューする事にした。評価に関しては後述する理由のとおり無印版で評価している。
以下、ネタバレあり。
料理マンガ、というより少年マンガ界における主人公像というのは基本的には善人である事がほとんどなのだが、本作の主人公である「秋山醤」はそこから大きく逸脱している。
料理は勝負がモットーで、とにもかくにも勝てば官軍というスタイルを貫き、幻覚キノコを使ったり相手の料理が不味くなるように味付けしたりと、とやりたい放題。
ところが単にそれだけだと単なる小物の悪役キャラでありここまでの人気は出ないものなのだが、困ったことにこの主人公、料理の味を追求するという一点において誰よりも純粋なのである。
自分が怪我をしようが火傷をしようがお構いなし。ただひたすらに美味い料理を出すことだけを考えて行動する。
そこに本作の魅力の全てが詰まっているのである。
この悪役主人公に対してもう一人の主人公と言えるキャラクターが、物語の舞台となる日本一の中華料理店「五番町飯店」の跡取り娘である「五番町霧子」だ。
料理は心をモットーに料理勝負に挑むこの王道キャラクターとの対比がある事で本作の邪道の主人公がより映えるのである。
また、本作の王道と邪道の対比はそれだけではない。
過激な表現が多い本作は、食べた人間が活力のあまり鼻血を出したり気絶したりと、ドーピングコンソメスープのような過剰演出のオンパレードである。この辺りは、いかにも90年代の少年マンガ的といえよう。
しかし、そんな料理マンガとしては邪道すぎる表現の根幹を支えているのが監修「おやまけいこ」による王道の料理知識なのである。
まだインターネットが普及していない90年代後半の時代において、このマンガの中華料理に関する造詣の深さは他の追随を許さないものがあった。その本格的な知識がベースにあるからこそ、過剰演出の料理マンガをついつい読まさせられてしまうという巧みさが本作にはあるのだ。また、その料理知識を再現する作者「西条真二」の画力も特筆に値する。
作中「秋山の魔法」と呼ばれる数々の不思議な料理が美味しそうに見えるのは、この作者の高い画力に裏付けされていると言えるだろう。
まさに邪道にして王道の作品である。
27冊全体を通しての構成的には料理勝負や料理大会といった良くある少年料理マンガの流れを追うだけではあるのだが、それでもなお、ジャンとキリコの最終対決となる「21世紀の料理編」は読みごたえがあり、一度読み始めると最後まで読まされてしまう事は確実である。
読者はみな最後まで秋山の魔法にくぎ付けにされてしまうのである。それぐらい、このジャンという主人公は魅力があったのだ。
さて、ここまでが無印の話。
では続編の評価はどうかというと、これがなかなか難しい部分がある。
無印版の最終回から半年程度を経過した時間軸で描かれる「鉄鍋のジャン!R」まではまだ悪くないのだが問題はジャンの子供を主人公とした「鉄鍋のジャン!!2nd」だろうか。
脇役だった「小此木タカオ」や審査員「大谷日堂」の子供達といったキャラクターが登場する点は過去作品を読んできた身としては面白い部分ではあるのだが、いかんせん、本編である料理の部分と秋山の魔法が物足りないのだ。
なによりジャンという強烈な個性を失ってしまった部分が大きすぎる。
もちろん二代目なので同じキャラクターにできないのは仕方がないのだが、それにしても無印版は本当に面白かったなぁと感じさせられる出来栄えだった。
また描かれる料理の魅力や薀蓄部分も物足りない部分があり、やはり監修のおやまけいこがクレジットから外れている点が大きいのではないだろうか。
総評だが、リアルな描写が求められる現代のマンガに比べると荒唐無稽な表現は多いものの、昔の少年マンガが好きだった層には絶対おすすめできる名作である。
興味を持たれた方は無印版27冊は入手が難しいので電子版や文庫版の13冊を手に取ると良いだろう。