つれづれマンガ日記 改

マンガをテーマに、なんとなく感想。レビュー、おすすめ、名作、駄作、etc

日和見主義と革命 ~ 静粛に、天才只今勉強中!

総合評価・・・3.68

 


年始一作目はレア作品ということで我が家のマンガ倉庫の中でも希少性が高いと思われる本作を久しぶりに引っ張り出してくる。

なんとも懐かしい月間コミックトムと希望コミックスである。

月間コミックトムといえば、三国志や風雲児たちといった作品が有名どころとして思い出されるが、本作も有名な作品の一つで一昔前ならその珍しいタイトルから古本屋で見かけることも多かったのだが、今となってはほぼ見かけることはない。


物語のあらすじとしては、フランス革命の時代に生きた政治家「ジョゼフ・フーシェ」をモデルにした主人公「ジョゼフ・コティ」というキャラクターの生き様を描いた作品であるが、フランス革命といえばベルばらであり、その華やかな時代において、全く違う角度からこれだけ地味な主人公の目を通して当時の世相を描いているあたりに作者「倉多江美」の異端の才能を感じずにはいられない。


もともとは神学校で物理学を教えていた教師だったが、フランスの市民革命のさなかに教職に見切りをつけ政治家を志すことになる主人公コティ。

気球の試作品を作る主人公コティとナポレオン(1巻より引用)


序盤の数巻こそ雌伏の時代のためにコティ自体には面白いドラマは起きないが、政治家としての本領を発揮し始める中盤の4巻以降からはその知性と見事なまでの風見鶏的な動きで、「ロベスピエール」や「ナポレオン」といった英雄たちを手玉に取りながら生きていく痛快な出世絵巻となる。

また、序盤から登場する事になるナポレオンの将来の妻「ジョゼフィーヌ」の放蕩と浪費の物語が、後半の政争時に絡んでくるあたりも構成上なかなか面白い。


とにもかくにも主人公の動きが打算的で、常に勝てる場面になるまで待ち、機会がくるまでは動かない。

確実に勝てる場面でのみ動く主人公(4巻より引用)

昨日までは政局の中枢にいて革命の名のもとに市民の虐殺をしたかと思えば、政局が思わしくなくなってくると、すかさず人道的に動いて人民からの追及を逃れようとする。

革命を主導するロベスピエールに命を狙われる立場になってからは、ありもしない噂を流すことで、政局の流れを変え身の安全を保つ。常に多数派に属する事を身上とするキャラクターであり完全に悪役ムーブの主人公なのだ。

右にも左にもつかない主人公(4巻より引用)




漫画のキャラクターであれば風見鶏で日和見主義の悪人キャラは主人公に完膚なきまでに叩きのめされるのが常なわけだが、現実世界は残念ながらそんな単純ではない。

この「相手との情報戦を制し、雌雄を決するまでは立場を決めず、常に多数派に所属する」という生き方は、やはり現実社会では有効らしい。つまるところ優秀なサイコパスが常に計算をはりめぐらせ、会社の中で出世していくという構図なのだ。

そもそも断頭台の処刑が乱発されていたあの時代に、殺されずに生涯を終えている時点で只者ではない。

幾度となく立場を追われながらも、何度も重要なポジションに返り咲きし作中ではナポレオン時代の警察大臣の立場にまで昇りつめる事に成功するのである。

金と情報の力を誰よりも理解していた(8巻より引用)




作品全体としてはさすがに古い作品なので、画力など現在のマンガと比較すると読みづらいレベルではあるが、それでも、この強烈に悪役的な動きをするサイコパスなキャラクターを主人公に置いたという点において、なかなか類を見ない作品であるため、歴史や政治ジャンルが好きな老人におススメしたい。

若い方や正義感の強い方が読んだ場合、この主人公の生きざまにどのような感想を持つかは正直わからないので、そのあたりは自己責任でどうぞ。