総合評価・・・3.80
「花井沢町公民館便り」以来の久しぶりのヤマシタトモコ作品だったが非常に良かった。
個人的には作者の最高傑作に位置付けたい。
その理由はこの作品の主題が「他者との交流」にあるからだ。
本作の主人公は、交通事故で突然両親を失った中学三年生の「田汲朝」と、そんな姪を引き取ることになった人見知りの小説家「高代槙生」の二人である。
そして、始まる二人の共同生活は通常の作品であれば悲劇のヒロインとして思う存分泣きわめくであろう姪っ子のほうが逆に現実を突き放して受け止めてしまい、突然の同居人を受け入れることになった35歳の叔母のほうがコミュニケーションに苦労するという導入から始まるのだが、これが本当に面白いのである。
愛されて育ったがゆえに屈託なく他者とコミュニケーションする悲劇のヒロインのはずの朝と、他者との交流が出来なかったがゆえに自分の妄想の国の住人になった槙生という好対照の二人はお互いを知らない国の住人のように眺めあう。
そして、そんな二人に当然起きる生活上の問題が「コミュニケーション齟齬」なのだ。
ヤマシタトモコの絵には昔から他の作者がマネできない華があるわけだが、その中でもやはり真骨頂といえるのが『言いよどむ表情』だとみている。
本作でもたくさんの名場面があるわけで、ネタバレになりすぎるので画像は貼れないわけだが、そんな感情表現やコミュニケーションの名シーンがこれ以上ないくらい豊富に描かれているのが本作「違国日記」なのだ。
つまり作者の持つ感情描写の匠の業を思う存分楽しめる作品なのである。
そりゃあ面白いに決まってる。
全11冊。何か大きな起承転結があるわけではなく、変に謎な鬱展開が始まるわけでもなく、逆に予定調和的なハッピーエンドを描くわけでもなく。
ただ、ひたすらに二人の主人公が体験した「他者との交流」を丁寧に描き続けたからこそ、最終巻の槙生から朝への交流に泣かされてしまうのだろう。
強いてあげれば11冊分もある物語なので、何か一つ、登場人物たちの人間関係に関して予定調和的な区切りやドラマティックな展開があっても良かった気もするが、それは物語中毒の病人が刺激を求めすぎているだけなのかもしれないので、本作はこの淡さが良いのだろう。
読み始めれば最後まで読まされてしまう事は確実な名作である。