つれづれマンガ日記 改

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転職の指南書 ~ ボクらはみんな生きてゆく!

総合評価・・・3.74

正直、山賊ダイアリーを超えるサバイバルマンガにはもう出会わないのではないかと思っていたのだが、ついにそれを超える作品が出てきてくれた。

それが本作「ボクらはみんな生きてゆく!」である。

全6冊と少し短めの完結となってしまった本作だが、ここ数年新刊を楽しみにしていた作品だったので数か月ぶりにブログを書くことにした。

ちなみに、サブタイトルにつけた「転職の指南書」という表現に間違いはない。これは人生のキャリアに悩む全ての人が一読しておく名作であり、それぐらい人生の可能性について考えさせられた作品だった。

「あきやまひでき」の作品といえば、なかなか評価が難しい化学物質過敏症という病気をテーマに描いた前作「かびんのつま」が記憶に残っていたわけだが、その作者がカナ文字の「アキヤマヒデキ」名義に変えて、そして、そもそものマンガ家としてのキャリア自体を捨てて、天然食材ハンターとして自然と暮らす日々を描いた本作。

これが本当に面白いのである。


素人がゼロから始めて、様々な食材を獲って食べる、という流れとしては先人である山賊ダイアリーと同じわけだが、何が違うかというと圧倒的に作者の年齢が違う。ここはエッセーマンガとしては非常に重要な点だ。

若者が新しい生活に挑戦するのは簡単だ。しかし、年齢を重ねるほど新たな事へのチャレンジは難しくなり、もちろん、失敗した時のダメージも大きくなる。

東京での漫画家人生に見切りをつけ、田舎に帰った作者に対しての家族の意見も当然ながら辛辣である。

1巻より引用


普通に考えて50歳近くまで東京でマンガ家をやっていたおっさんが、自給自足で自然の中で生きていこうとするなど、どう考えても無謀であり周囲の反応も冷たい。

ところがだ。


ここから面白いぐらいの作者の快進撃が始まるのだ。

鹿に始まり、素人には絶対にできないといわれているイノシシを罠で捕まえ、養蜂に手を出し、ウナギを川で釣り、ついには自身で食肉解体販売所さえ作り出すのである。

どう考えても50近いおっさんの動きではなく、異世界転生ジャンルでも読んでいるのかな?と途中で首をかしげてしまうほどの展開なのだ。

また失礼ながらこの年齢では考えられないほど危機管理意識が低く、本作の中でも命の危機にさらされることが一度や二度ではないのだが、それでも懲りずに食材獲りを続ける。

ハッキリ言って天才である。


そして、これこそが本ブログのサブタイトルに示した「転職の指南書」という意味なのだ。

作中でも語られる通り、作者「アキヤマヒデキ」は20代の頃からマンガ家としてのキャリアを積むがヒット作には恵まれず、中年になって東京を去ってから食材ハンターという仕事に就くことになるわけだが、これは当然ながら誰にでもできる事ではない。


というよりむしろ、東京にいるすべてのマンガ家を集めて同じことをやらせても、作者と同じ成果が出せる人は片手に足りるほどもいないのではないだろうか。

マンガ家としては凡夫でも、ハンターとしては天才だったのである。ここに人生における可能性の素晴らしさを感じずにはいられないのだ。

そして、何よりも重要な点は作者が「子供のころから生き物を獲ることが好きだった」という点である。

大事な事なのでもう一度書くが、作者は「子供のころから周囲にほめられるほど生き物を獲ることが好き」だったのである。

1巻より引用


これが「才能」というものなのだ。そして大変ありがたいことだが本作を読む限り、この「才能」というものは数十年使っていなくても古びることなく使えるものらしい。

 

結局のところ、キャリアにおける成功というものは困難があっても続けることができるかどうかにかかっており、その行為自体が楽しいからこそ考え工夫をし、報酬としてますます仕事の幅が広がってくる、というキャリア指南書のお手本のような事例を見せられた作品だった。


自然の中で暮らす面白さと、人生における可能性の幅広さを感じさせてくれた本作を、都会での生き方に悩む全ての人におススメしたい。