総合評価・・・3.60
なんとも懐かしいマンガが読みたくなって、古本市場で購入。
「つのだじろう」が作画を担当した第一部までは読んでいたのだが、
第二部は未読だったので、今回初めて完結まで読むことができた。
結論としては、マンガ史において他に類を見ない怪作であり、マンガマニアなら一度は読んでおきたい作品である。
内容的には、極真空手の設立者である大山倍達の自伝マンガというスタイルを取り、彼の様々な戦いの日々を綴るわけだが、山籠もりに始まり、牛殺し、他流試合等の激しい逸話の数々は、本当に真実なのか?と疑わしく思える個所が何度も出てくる。
しかし、そこで本作のリアリティを圧倒的に高めているのが、様々な個所で挿入される「大山倍達(談)」なのである。
実在の人物の自伝マンガとして描かれている為、これらの吹き出しが作品の中で「これらは誇張ではない」とか「嘘と思われるかもしれないが現実にあった話である」といった、まことしやかな語り口で描かれるために、読者はすっかりこの物語を真実と信じ込み、結果、本作は爆発的な人気を獲得し、今日の極真空手の繁栄に繋がるのである。
しかし、この「大山倍達(談)」が実は「民明書房」だったとしたらどうだろうか?
勿論、全てがフィクションだったわけではないが、虚実入り混じっていたというのが結論のようで、そうなると、俄然、話が変わってくる。
特に、中盤から後半にかけて登場するライバルキャラクターは、存在自体がフィクションという人物も出てくるので、こうなるともう自伝マンガと呼ぶべきなのか。
ただ、昭和の時代を考えると、「しょせんマンガなんだから当たり前」という感覚もあっただろうから、このあたりを考えると、一概に否定はできないのが難しい。
しかし、マンガの地位が向上してしまった現在であれば完全に炎上間違いなしの事案だろう。この作品を通じて結果的には、多くの読者に極真空手を習わせるきっかけとなったのだから、マンガというメディアの力強さと怖さを感じさせられる作品である。
加えて、作画が途中から「故・影丸譲也氏」に切り替わるというスタイルも現代では絶対にあり得ないレベルなので面白い。最終章に近づいた頃こそ、多少はつのだじろうタッチの若き日の大山倍達も描かれるのだが、最初の頃は完全にオリジナルデザインで、同じマンガを読んでいるように思えないレベルである。
さて、色々マンガ論を述べたが実際の作品が面白いかというと、流石に多くの少年を魅了しただけあって、これが面白いのである。
特に第一部が素晴らしい。つのだじろうの絵柄で格闘マンガを読めるという点から既に面白いのだが、内容も良い。
フィクションも混じると思って読むと少し醒めてしまうが、それでも面白いものは面白いのである。
また、第二部は序盤こそ今一つだが、中盤から登場するもう一人の主人公、「ケンカ十段の芦原英幸」が非常に魅力的で、ついつい続きが気になって読まされてしまうのである。
極真空手入門者が増えたのも頷ける話だ。
総じて「マンガ」というジャンルが今のように確立されておらず、所詮は子供が読むもの、といった文化的背景があったことも含めて、マンガ史的に重要な作品である。