つれづれマンガ日記 改

マンガをテーマに、なんとなく感想。レビュー、おすすめ、名作、駄作、etc

薙刀ジャンルの開拓者 ~ あさひなぐ 

総合評価・・・3.68



ずいぶんと久しぶりに更新。

 

ついに完結という事で、中盤からしばらく距離を置いていた、
あさひなぐ」をやっと読了。

 

久しぶりの大型部活マンガだったと思うので、
マンガ界の一大ジャンルといえる「部活マンガ」という領域に関して、
ネタバレ含めて長文で感想を書いてみることにする。

序盤大好きだった作品だけに、相当な辛口レビューなので、
ファンの方は、このままお帰りください。


 

 





全34冊、何も持っていない系の主人公が、ひたすら努力を重ねて成長するという物語は、昨今の洗練されたマンガとは一線を画しており、その点は非常に面白かった。
やはり泥臭い青春部活マンガはいつの時代も王道。


反面、人気が出てしまい巻数が伸びる、かつ、
部活マンガの罠にはまってしまったのが、
本作の評価を非常に難しくしている要因である。


巻数が無駄に伸びていくのは大ゴマに頼りすぎている「絵」の問題であり、
部活マンガの罠は、物語構成の問題なのだが、まずは、物語構成の話から。


さて、この部活マンガというジャンルの明暗を分けることになる
最大のポイントは何かというと、最初の主要キャラクターの配置を何年生までの範囲で決めるか、である。これが物語構成の肝。


そして、最もよく使われるテンプレートが
先輩後輩の関係性が深まる2年生に憧れの先輩を配置し、
1年生が未経験で入部するという物語構成になるのだが、
この漫画構成の弱点が「全国大会」なのである。

というのも、憧れの先輩は「全国レベル」のプレーヤーであり、
反面、主人公は初心者というスタートを切ると、
この主人公が全国レベルになりうるのは現実的に言って、
やはり3年生の時になってしかるべきである。


しかし、この主人公を3年生まで育てる構成には2つの弱点があって、
一つは憧れの先輩が現役を引退してしまう事、
そして、こちらのほうがより構成上の難問なのだが、
下級生を2世代作らなければいけないのである。

この下級生という存在は非常に厄介で、彼らがあまりに魅力的すぎると主人公を中心に物語を展開する意味がないし、憧れの存在は2世代いらないので、結果として、
構成上の時間軸が、2年生の主人公と3年生の憧れの先輩、
そして新たに入ってくる1年生という展開が限界になるのである。


そして「あさひなぐ」もこの学年構成を選択したわけだが、ここで展開が厳しくなってくるのが、物語の中盤「宮路真春」に怪我をさせてしまった点である。

 

真春の怪我は、二ツ坂高校内における部活としては、物語を盛り上げる非常に重要なイベントだったのだが、反面、最後の全国大会でこのツケを払うことになる。

それが、終始一環して王者の位置を貫いた「戸井田奈歩」の存在である。

怪我でリタイアした真春が、最終決戦で奈歩を倒して全国を制すという展開が、
夢物語に見えてしまったのは私だけではないだろう。
それぐらい「戸井田奈歩」というキャラクターは王者として君臨していた。
それゆえに最終決戦の試合は描かれていないのである。描けないからだ。



また、学年構成上、旭が戸井田奈歩のライバルになることができない為、
彼女のために創られたライバル島田の存在も、本作の面白さを損ねている。

最終巻において、
「あの子は私と同じ、高校から薙刀を始めた人だ。」
をやりたかったことはよくわかるのだが、
それにしてはキャラクターを変に露悪的に造りすぎた。
あれだけの悪態をつくキャラクターに仕上げる必要性を感じられなかった。

この展開であれば、島田と旭の二人を同じような人格設定にしておいて、
最終的に、仲間を必要としなかった王者「奈歩」と
怪我で仲間に頼ることを覚えた「真春」の指導者としての違いを描くことで、
二人の勝敗に明暗を付けることも可能だっただろう。

では、なぜそういった物語の論理的な展開がなかったかというと、
この「あさひなぐ」という作品が、キャラクターの性格や物語の構成ではなく、
「絵」で作品を描く方面に進んでしまったからである。
これが最初に指摘した巻数が間延びした「大ゴマ」の問題とも重なる。

本作自体は「キャラクター間のやりとりにおける感情と成長」
が愛されて人気が出た、ある意味キャラクターエモーショナルな作品だったにもかかわらず、本作は中盤以降、どんどん迫力ある試合を「絵」のみで描く事に執着していく。
その結果、人物造詣と物語展開に論理性が失われてしまったのである。

全国大会まで進んだレベルの作品にしては、
薙刀の型や技に関しての言及が酷く少ない作品となっているのが、その証拠でもある。

特に、「技」に頼らなかったのはかなり致命傷で、
ライバル校のキャラクター群を立たせるには、
やはり「技」とセットにするというのが王道の手法なのである。


そういった意味で、同じ武道の部活を描いた高校部活マンガの最高傑作といえる
帯をギュっとね!」は流石だった。
1年生5人のみで部活を始めるという設定を使う事で、部活マンガの時間軸問題から逃れており、また、多彩なキャラクター群の性格設定に加えて、各キャラクターの持ち技を立たせることで、人物造詣と同時に試合展開にも論理性を加えている。
その結果、最後の全国大会制覇までを破綻なく描く事に成功しているのである。
ちなみに最初の1年生の大会をラッキーで勝ってしまうのは、サンデー文化であり、「ジャストミート」の系譜でもあるので、そこは目をつぶる事にする。


というわけで、本作は序盤において最高に大好きだったマンガだっただけに、
最後まで序盤の期待を超えることが出来なかったことが非常に残念であった。
せっかくなので、最高に好きなシーンを貼っておく。
この場面を雑誌で読んでいた頃は心底震えた。

f:id:mangadake:20210124004207j:plain

(最終34巻より引用)

 

ちなみに最初の頃の期待値が高すぎただけで、
薙刀というジャンルを開拓している点は高いオリジナリティがあり、
マンガとしては十分面白い水準なので、その点は誤解がないように。
普通に読む分には楽しめる作品である。

こざき亜衣」の次回作に期待である。

 

f:id:mangadake:20210124004806p:plain



 

あさひなぐ コミック 1-34巻セット

あさひなぐ コミック 1-34巻セット