総合評価・・・4.02
最終回含めて壮絶にネタバレありなので、未読の方は禁止。
完結以来読んでいなかった本作を読み返したところ、当時感じたより何倍も面白く感じて、何度も読み返してしまったので、長文で書く事にする。
「田辺イエロウ」の代表作となる本作だが、長編なんだけどなんとなく地味だよねとか、中盤まで(黒芒楼編)は面白いよね、とかラストのまとめ方が納得いかない、等、世間的な評価が散々な側面もあり、実際2011年に本作が完結した時のサンデーを読んだ私の感想も同じだった。
え、これで終わり、これで最終回なの?
もっと面白くできたんじゃないの?
みたいに感じたのを良く覚えている。
ところが、今回読み返してみて良くわかった。
この作品は「少年マンガ」としてのツボは完全に外しているが、「青年マンガ」としては完璧に完成している作品だったのである。
序盤は烏森の土地にまつわる妖怪退治や、パティシエの浮遊霊にまつわる物語などのギャグパートを交えたのんびりした作品だったが、4巻で兄・正守が登場すると作品のテンションが一変。
その後、作品の評価を一躍高めた「志々尾限」の死亡から、黒芒楼編の完結までの流れは完璧な少年マンガだった。
特に限の仇討となった「火黒」との闘いの盛り上がり方は、主人公・良守が本作の中で魅せる唯一といって良いほどストレートで完璧な戦闘シーンになっている。
また、妖怪ではなく悪魔の登場を予感させた「松戸平介」と「加賀見」の存在も、その後、必ず再登場すると思われるほど良いキャラクターに仕上がっており、今後は悪魔の世界も加わってくるのかと感じさせられる、ある種のインフレ的な世界観だった。
だからこそ、読者の本作への期待は「少年マンガ」になっていたのである。
しかし、これ以降、良守の闘いは散々である。
主人公一人が無敵の力で敵を倒すという展開はほぼなく、相手に逃げられたり、他のキャラに殺害されたり、序盤から一貫して登場する「裏会」という存在のラスボスとなる「総帥」との闘いが自殺、かつ、主人公ではなく兄・正守が立ち会っているとう時点で、完全に少年マンガのセオリーを外している。
そこに、読者に与えられるはずのカタルシスはない。
反面、物語のメインストリームは「烏森の土地の封印」と「裏会」という複雑な人間模様を描く作品に変容していく事になる。
主人公以外の登場人物が様々な思惑を巡らせる中、主人公の焦点は当初からぶれずに「雪村時音」を守る事と、烏森の守護と封印に一貫しており、どちらかというと作中では地味な役割を与えられながら、それでも彼は最後には、母親を守れなかった1点を除いては、完璧に自身の目的を達成するのである。
そして、この手の世界観を描く作品の多くは、「少年マンガ」ではなく、「青年マンガ」なのである。
さて、先ほどから何度か書いているこの、「少年」と「青年」の違いが何かを一言で顕せば、
「自己万能感」
という事になるのだろう。
主人公が最後に全てを力で完結させる爽快感や、欠ける部分のない完全なハッピーエンドといった、ある種お約束といえる展開ではなく、様々な制約の中で、自分のできる限りを尽くすという物語。
それが、本作なのである。
まぁ、つまるところ昔この作品を読んだ精神性が未熟な自分は、その万能感の無さに無念さを覚えたのだろう。
加えてヒロイン「時音」とのラブコメ描写が少なく感じたのも当時の不満感だったが、こちらも読み返してみると要所要所で時音の良守に対する態度が変わっている描写はしっかり描かれていた。
そして、ラストシーンの2人が、自身の夢を語り合いながらケーキを作る展開は、
唐突に見えるかもしれないが、この作品の完結としては相応しいものだった事が今となっては良くわかる。
とはいえ、最終巻でどこが記憶に残っているかといえば、全てをもっていった母「守美子」の最後の告白こそが本作最高の名シーンではあるのだが。
そんなわけで、この、中盤からの極端な作品世界の変遷が最後まで読者がついてこずに、本作を「地味な作品」に位置づけている要因なのだが、世の中はそこまで自己万能に動くわけでもなく、人と人の繋がりは思ったより世の中を動かしているし、完璧なハッピーエンドはなく妥協しているかもしれないけれど、それでも世の中は回っていくし良くなっていくものだという、精神年齢が低い当時の自分には読み取れなかった、深い面白さが含まれているので、昔この作品に不満を感じた読者にこそ、本作を再読してほしいと思った次第である。
設定の複雑さも、全巻一気読みするとより理解しやすいので、連休中にオススメしたい作品である。
やはり、サンデーには名作が多い。