近年のスポーツ漫画としては最高峰の面白さを誇った本作が
落としどころの無い完結を迎えたことで、
ますます長期連載が嫌いになっている昨今である。
本作自体は超有名作品の一つなので未読の方は少ないだろうが、
テニス完全初心者の主人公「エーちゃん」が、
成績オールAの生真面目な性質を生かして、
地味に果てしなく堅実に、テニスという戦略的なスポーツの階段を
登っていくといういぶし銀の名作だった。
そんな独特の主人公を中心に進められるテニス物語は、
毎回の試合運びも非常に論理的に構成されており、
登場するライバルキャラクター達も魅力的な状況に加えて、
合間にたまに描かれるヒロインのなっちゃんとのラブコメ描写も巧いという狡さで、
序盤から中盤にかけての面白さは、マガジン屈指の傑作だったといえる。
特に派手な能力や才能がものを言う週刊少年誌の連載陣の中で、
地道で努力が得意という主人公でメジャー作品の仲間入りをしたという実績は、
作者「勝木光」の類まれな快挙といって良いのではないだろうか。
しかし、徐々に高校生活の終わりが近づき、
エーちゃんがプロを目指してからの展開が非常に難しかった。
少年の成長というジャンルのスポーツ作品と、
プロの生活というジャンルのスポーツ作品は、
ゴールの置き方が異なる作品群なのである。
これが、プロ野球選手やサッカー選手の息子が将来を目指した作品であれば、
プロ編にも何らかのゴールが置けたのだが、エーちゃんの場合は違う。
リアルに自分の進路やキャリアを考えるという描写は描けたが、
プロ入りしてからのゴールをどこに置くかを十二分に描き切ることができなかった。
非常にリアルに物語を描いてきた作者だからこそ、
作品そのものが主人公の人生に対する道のりとなってしまい、
プロとしてのカタルシスの落としどころが不明瞭になってしまったのである。
もっとマンガ的に、
唯一無二のライバルを倒そうと努力する作品や、
ワールドカップや世界チャンピオンを目指す作品とは違う、
リアル志向の本作ならではの弱点だったのだろう。
とはいえ、プロ編からも決して面白くないわけではなく、
作品としては読み応えのある内容だったし、個人的には好きだった。
しかし、そんな主人公の人生の道のりそのものを
細々と長く描くというスタイルに将来性がないと感じられたのだろうか、
はたまた作者自身も、これ以上プロ編でかける面白さがなくなってしまったのだろうか、何ともいえない終わり方を迎えてしまったのである。
編集サイドとしてもプロ編を描くことにした時点で
ある程度の長期連載は覚悟して始めないと、
せっかくついてきた読者の気分は台無しである。
これなら、もう少し夢物語で良いのでプロ入り前のどこかで
ライバルとの闘いを勝たせて完結させた方がましだった気がしてしまう。
というわけで、現在のマンガ編集サイドには、
長期連載をコントロールする覚悟も実力も足りないので、
もう少しだけマンガの時間軸を短くするようにしてほしい。
最高に面白かっただけに、終わり方だけが無念でならない作品である。
ラストがなければ、殿堂入りの名作である。
まぁ、最後に一つだけ物語の中で区切りをつけてくれた点だけが慰めだろうか。