鮮やかな神戸の街を舞台に、
主人公の女子大生「辰木桂」の大学生活を
私小説風に描いた傑作。
トーンをあまり使わずに
丁寧に描かれた実在の地域や名所と、
そこを舞台に動き回る登場人物たちの群像劇は、
希薄ながらも重厚な大学生活のモラトリアムな時間を、
読者に共有させる事に見事に成功している。
物語の時間軸的には、阪神・淡路大震災と重なっており、
その点を取り上げられる事も多い作品だが、
個人的には震災の要素を抜きにしても
本作の面白さの本質は全く変わらないと考えている。
大学生活の描かれ方も非常にリアルで、
授業ですれ違う友人、サークルの人々との交流、
それらを超えた存在となる親友、といったように、
特定のキャラクターを活かすために物語が創られるのではなく、
あくまで主人公「辰木桂」の人生の流れの中で、
様々な人物がすれ違い、通り過ぎていくという構成が、
この作品の完成度をさらに高めている。
作者「木村紺」は、その後も意欲的な作品を輩出しており、
「からん」等の非常に惜しい作品もあるのだが、
全体的な完成度としては、未だに本作を超える事ができていない。
その特徴的な雰囲気と絵柄からも、
合う合わないがあるマンガではあろうが、
気に入った人にとっては、
決して忘れられない名作の一つだろう。