つれづれマンガ日記 改

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弁護士のくず

(2012年評)
法廷ジャンルマンガとしては、
間違いなく傑作の部類に入る作品。

ドラマ化もされたので、ご存知の方は多いだろう。

裁判や司法をテーマにしたマンガは、
どうしても善性に訴える方向に走りがちだ。
しかし、本作は秀逸なタイトル通り、
善良さとはかけ離れた主人公が、
人間の本質的な悪から目を背けない事で
依頼人の人生の悩みに答えを出していく。

井浦秀夫は、「AV列伝」というAV女優や監督をテーマにした
作品も描いており、人間の裏側の感情を描くのが大変上手い。

作画はそれほど上手に見えないのだが、
人間の瞬間的な表情を切り取らせたら卓越した手腕の持ち主だ。
そういう作者でなければ、この手の作品は描けないだろう。

序盤の面白さは抜群だった。
屈指という言葉を添えても構わない。

しかし、中盤から恐れていた展開が起きる。

1話完結スタイルの崩壊だ。

もちろん創作する側の人間にとって、
1話完結のスタイルが大変厳しい事は重々承知である。

あれだけ濃密なプロットを作り続けていれば、
いつかは限界が来るのが当然だ。
しかし、その限界が予想より早かったのだ。

それさえなければ、
本作の知名度はさらに高まっていたと思われる。
ここで対照的な作品を紹介したい。
それが「美味しんぼ」だ。

美味しんぼ」の序盤が素晴らしかったという点は、
誰が読んでも理解できるところだ。
1話に詰まっている作品の密度が異常だった。
そして作品の密度が高まると自然とネームの質も高まる。
本来、作品の長期化は、あまり望ましい事ではないのだ。

美味しんぼ」は、最初の十数冊をそのペースで突き抜けたのだ。
これは偉業だったと言わざるを得ない。

だから、多くの人間の間で語り継がれ、
美味しんぼ」は伝説になったのだ。


それ以降の、1つの食材や料理を単行本1冊程度を使って掘り下げる
スタイルが、序盤よりも面白くないのは誰にとっても明らかだった。

けれども、既に人気が出た作品というのは、
それほど大きく下手を打たない限りは売れ続けるのだ。

それが良いか悪いかは別として。

断言する。
もし本作が序盤のクオリティであと10冊続けることができていたら、
20世紀を代表する法廷ジャンルの作品として君臨しえただろう。

その点は大変惜しかった。

しかし、そうは言っても並の作品より面白い事は明らかだ。
未読ならば最初の3冊だけでも読んでおくべきだろう。

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