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個性派の妙技 ~ 拾われた男

評価:3.5 / 5点



何が面白かったのかと問われると、正直よくわからない。

しかし非常に面白かった不思議な作品である。

個性派俳優として活躍する役者の「松尾諭」が描いた半自伝的原作小説を、これまた個性派としての立ち位置を確立している漫画家「勝田文」がコミカライズしたという事で、既にその組み合わせの時点で勝っていた気がする。

それぐらい、このコンビは良かった。

物語は役者に憧れた主人公の「まっちゃん」が兵庫の尼崎から東京に飛び込むところから始まる。

当然、人生そんなにうまくいくわけもなくオーディションに落ち続けてバイト生活に明け暮れるという上京にありがちな展開になるのだが、偶然拾った航空券の落とし主が芸能プロダクションの社長だった、というまさに漫画のような出来事によって「拾われた男」の物語が始まるのだ。

拾われた男の主人公「松尾諭」

昭和顔の主人公(上巻より引用)


モデル顔ばかり見ていた社長に昭和顔を気に入られるという、まさに個性派役者と呼べるスタートを切るわけだが、その後は漫画のようにドラマチックな展開があるわけではなく、東京生活に溺れたり俳優の仕事がなくてバイトばかりしたりと渋い展開が続くわけだが、このあたりの生活描写において勝田文独特の「コミカルさの中にも人間味があふれる線」が光るのである。

そして、なんだかんだでダメなところが色々ありながらも結局愛されてしまう主人公の人間力。

バイト先の親方に飯を奢られる松尾諭

なんだかんだで可愛がられる主人公(上巻より引用)


やはり何度読み返しても、このあたりの組み合わせが絶妙なのだ。


昨今の漫画は少し過剰演出というか、原作と漫画が分かれて二人分の能力を注げるようになってしまったぶんだけ、知識や設定を原作がたくさん詰め込み、絵の巧い漫画家が美麗にそれを展開するハイカロリーな作品が増えたわけだが、ちょっと肩の力を抜いたリアリティのある人物が現実をただ生きる物語というのも、そんなハイカロリー漫画と同じぐらい面白いのだという事を改めて認識させてもらった次第である。

最終章はアメリカに渡って音信普通になっていた兄の病気について語られるわけだが、このあたりの最後の展開や主人公の感情の動きも非常にリアリティに満ちており、別記事のインタビューで「自分の中でも整理できていない感情」と語られていた通りの物語だった。

一人の人間の人生を描いた物語なのだから、極端すぎる展開があるわけでもないし、奇跡が起きるわけでもないのだが、だからこそ勝田文のシンプルながらも味わい深い線が映えた作品だったといえるだろう。

上下2冊という短さも読みやすさにつながっており非常に入りやすいので、短くても面白い人間ドラマを求めている人におススメしたい。

読後メモ:人間ドラマ

  • 好き:勝田文の軽やかな線で立ち上がる生活の温度と、“拾われる”主人公の人間味
  • 弱点:派手な山や劇的展開は少なめで、刺激重視の読者には淡白に映る
  • おすすめ:短尺で読める実話ベースの人間ドラマや等身大の成長譚が好きな人
  • 評価:3.5 / 5

レビュー執筆:mangadake(当ブログ管理人)

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