吉野朔実さんが亡くなられたとの事で、
急遽本作のレビューに変更。残念至極である。
本作はまさに、
古き良き時代の少女マンガと呼ぶに相応しい名作であった。
こう書いてしまうと、
現在の少女マンガが悪いように聞こえるかもしれないが、
そうではない。
現在の少女マンガは抜群に面白い。
発行部数は少年マンガのほうが多いだろうが、
恐らく少女マンガのほうが作品の質が高い。
しかし、それは少年マンガの面白さを内包した面白さなのだ。
例えば、学園生活やファンタジーなど、
かつての少年マンガが一世を風靡した舞台において、
少女マンガが活躍しているのが現代なのである。
対して、本作は違う。
24年組以降しばらくの間、少女マンガは独自の発展を遂げ、
少年マンガのジャンルと融合する事を是としなかった。
そして、そんな独自の発展を遂げた少女マンガが築いた
最大の収穫の一つが、本作で描かれたような、
「少女の心を哲学する」ジャンルなのである。
主人公の「狩野都」は少女でありながら、
自身の「女」を認めていない。
そんな自身に対する居心地の悪さを、
最初から最後まで問い続ける。
そこに、少女マンガお決まりの
「恋愛」が介在する余地は少ない。
この、「主人公の内省」こそが、
本作の最大の魅力なのである。
加えて、詩的なフレーズの質の高さと、
斬新な構図や画力も大変魅力的である。
唯一の弱点をあげれば、テーマに対して、
少しだけ作品の足が長かったところだろうか。
理論的に丁寧に描写をする分だけ冗長でもあった。
この辺り、圧倒的な感性だけで「少女」を描いていた
大島弓子作品が研ぎ澄まされているように見える理由かもしれない。
何にせよ、今は少なくなってしまった「少女哲学」ジャンルの傑作である。
作者の次回作が読めないのが残念である。