個人的には、ある程度以上の年齢の方に、
「面白いマンガは何?」と尋ねられれば、
必ず答えるのはこの作品である。
はっきりいって桁違いに面白い。
このレベルになると、
マンガは子供の娯楽を通り越し、
大人の造詣に耐えうる一つの作品として成立している。
まず、キャラクターが素晴らしい。
元SAS軍の曹長として卓越した能力を持ちながら、
自身の考古学者としての未熟な立場に苛立ちを覚えつつ
人生の意味を模索する主人公キートン。
子供マンガであれば、
普段はうだつのあがらない考古学者、
しかし、その実態はエリート軍人
といったヒーロー像を描けるのだろうが、
大人マンガの現実は違う。
けれども、そんな紆余曲折を経た主人公だからこそ、
これだけ郷愁と叙情に溢れた
作品に展開できたのかもしれない。
また、浦沢直樹の描く世界が素晴らしい。
人間の、一瞬の表情を切り取らせれば
やはり当代きっての腕前であることは間違いない。
そして、物語が素晴らしい。
ひとつひとつの短編に、プロとしての取材に裏付けられた
レベルの高い教養が含まれており、
視野が広い人ほど楽しめる作品になっている。
原作者、勝鹿北星がどの程度まで
この作品に関与していたのかは、諸説わかれるところではある。
長崎尚志と浦沢直樹で
作った作品であるとのインタビューもある。
しかし、私自身はやはり
マンガ読みとして考えてみたい。
勝鹿氏が原作をしていた時代の作品が、
「パイナップルARMY」
「MASTERキートン」
長崎氏が前面に出てきてからの作品が、
「MONSTER」
「二十世紀少年」
「ビリーバッド」
残念ながら、作品としてのその差は歴然であり、
答えは明白である。
マンガというものは週刊連載で読んでいて、
続きが気になればよい、単行本が売れればよい、
というものでは断じてない。
「いつまで読んでも混ざらない交響楽みたいなマンガ」
という言葉がぴったりである。
なんとか、このMASTERキートンという
日本のマンガ史に残る名作を
生み出した時代を思い出してほしいものだ。
私のマンガ棚から、
決してなくなることがないであろう、
不朽の名作である。
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