(2012年評)
第一巻の表紙をめくれば、
そこに広がるのは文化祭の熱狂。
なんとなしに手に取ってみた作品だったが、
とにもかくにも絵が上手い作者だった。
これだけ画面狭しとキャラクターを動かせるのだから
マンガ家としての資質は十分なのだろう。
しかし、残念ながらその才能に胡坐を掻いている。
本作は、タイトルの通り、
文化祭の始まりから終わりまでを描いた作品だが、
王道のメインシナリオ、
間に挟む奇譚系サブシナリオ、
どちらにおいても作者のテンポが前面に押し出されすぎていた。
最近増えてきた、読者が疲れるタイプの作者である。
マンガの幅が広がった分、
読者の許容量も上がったため、
こういった類の作品は増えてきた。
しかし、やはりマンガ家の王道は
読んでいて腹に落ちる物語作りである。
それがなければ、素晴らしい絵や雰囲気も
無用の長物というものだ。
この熱狂的なテンション自体が学園祭の熱だという
優しい解釈もあるかもしれないが、それならば、
「ビューティフル・ドリーマー」を見て考え直したほうが良い。
奇譚の中にも物語性を描くことを、
もう20年近く前に押井守は実現している。
ただし、やはりこれだけの雰囲気と画力を持つ作家。
このままでは本当に勿体無い。
是非とも今の壁を越えて、もう1ランク上の作品を作って欲しい。
次回作に期待だ。