評価:4.1 / 5点
古くからの二ノ宮知子ファンなのでほぼ全ての作品を読んでいるわだが、知名度でいえばやはり「のだめカンタービレ 」には劣るが、一番好きな作品をあげろと言われれば絶対に外せないのがこの「天才ファミリー・カンパニー」である。
作品発表から数十年を経過したわけだが、改めて読み返してみると作者の社会を見抜く観察眼の凄さを感じさせる大傑作なのだ。
二ノ宮知子の最初期作品である「トレンドの女王ミホ」は社会を観察する力で創作されていたが、やはりその頃から観察眼に関しては天性の才能があったのだろうか。
Wikiによると本作の連載開始は1994年という事で作者が20代半ばの頃の作品になるのだが、何が凄いかといえば、この年齢で「社会は人のつながりで出来ている」と見抜いている点が圧倒的に凄い。
若いころというのは誰しも、特にクリエーターのような仕事をしていれば自分の能力を過信するもので、能力があれば他人より秀でられると思い込みがちなのだが、それだけで大成するのはせいぜい特定分野の非常に狭い領域だけであり、特に社会という広い海に投げ出されると世の中がどれだけ人的ネットワークで形成されているかを思い知るものである。
そして、その流れを物語の中で体感するキャラクターこそが本作の主人公「夏木勝幸」なのだ。

父親を亡くした事がきっかけで子供のころから母親と一緒にビジネス三昧で、ハーバード留学を目指す天才高校生という、まさに自分の能力で世の中を渡れると確信しているこのキャラクター。
造詣的には相変わらずの二ノ宮作品の王子様キャラなわけだが、近年の優しさを帯びたタイプの男性キャラではなく、才能に尖りまくっている、ある意味作者20代の感性がほとばしっており控えめに言って最高である。
しかし、そんな自己万能感全開の彼の前にふとしたきっかけで現れた母親の再婚相手「田中壮介」は、ホームレスのような無職のおじさんで、しかも同級生の子供「田中春」まで連れて夏木家に住み込みはじめてしまうという、まさにホームコメディ的な展開に。

そんな導入から始まる序盤は、破天荒な生活に巻き込まれていくテンポの良いコメディ作品なのかと思わせておいて、徐々に家族を巻き込んだ一大事件が発生し、様々な登場キャラクター達が次々に収束していくシリアスな後半の展開はまさにお見事としか言いようがない。
そして本作全体を通して描かれるテーマは最後まで「人のつながり」の持つ力なのだ。
世界中を放浪していたというバックグラウンドを持つ壮介と春というキャラクターは主人公の夏木にとってまさに宇宙人とも呼べる存在なのだが、物語の大事な場面で次々と活躍するそのコミュニケーション力とネットワークの広さに徐々に主人公も影響を受けていく事になるのである。

もちろん90年代の作品という事もあり、ご都合主義すぎる展開があるものの、それでも人が人を通じて成長していくという部分に本作の色あせない面白さがあるのだ。
また本作の白眉はラストシーンであり、最終ページに描かれた1コマは「人間の人生にとって大切なモノは何なのか」その答えをそっと教えてくれる完璧なエンディングである。
何十年経過しても、このラストの1コマだけは記憶に残っており、恐らくこのラストの感動を超える作品には滅多にお目にかかれないだろう。
「天才ファミリー・カンパニー」という勢いだけでつけたような不思議なタイトルのこの作品は、未読の方に絶対の自信をもってお勧めできる必読の傑作なのである。
読後メモ:人のつながり×ホーム&成長コメディ
- 好き:観察眼×人間関係の設計、笑いとシリアスの緩急、記憶に残るラスト
- 弱点:90年代ゆえのご都合主義や跳躍が一部目立つ
- おすすめ:二ノ宮知子の人間ドラマ/成長譚/ホームコメディが好きな人
- 評価:4.10 / 5
レビュー執筆:mangadake(当ブログ管理人)
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