数少ない宗教マンガの傑作として、
語られる事の多かった本作「少年の国」
宗教等少しも信じていなかった、
不良少年「上杉」の存在を通して、
読者は、人が宗教に染まっていく
心理と狂気を体験できる仕掛けになっている。
作者「井浦秀夫」得意の冷静な視線と、
高い人間観察力や論理構成力がなければ
実現できなかったであろう傑作である。
オウム真理教の事件発生3年前に
事件を預言したと語られる事もある本作だが、
その方向だけで賞賛されるのは、いかがなものか。
本作の素晴らしさは、
時代を先取りした先見性だけではない。
ごく当たり前の若者が、自分たちの理想を追い求め、
そして、理想を狂信にこじらせ自らの世界を破壊していく様子は、
オウム真理教のような宗教の事件だけに限った事ではなく、
様々な思想による運動全てを含んでいる事象である。
むしろ本作の白眉は、思想活動の渦中にいた人間の、
心の変遷と葛藤を、これほど見事に
マンガの上に再現しきった事である。
文庫版で全2冊。1巻の巻末にはマンガ評論家「呉智英」の
解説もついており、併せて読む事で本作の持つ
本質的な面白さを理解できるだろう。
宗教を舞台にしたジャンルのマンガは徐々に増えつつあるが、
宗教という思想行為の本質に迫ろうとしている作品は少なく、
本作の知名度が下がっているのは見過ごせない事態だ。
これを読まずに宗教マンガを語ることはできない、
必読の名作の一つである。