評価:2.72 / 5点
2017年の連載完結から随分と時間が経過しているのに、なぜか一定数の読者がこのブログを訪れている不思議な作品。それが「ゲレクシス」である。恐らくこのブログぐらいしかゲレクシスの感想を語っているサイトがないのではないだろうか。
しかし、当のブログ主もこの作品に関しては酷い低評価をつけて以来再読していなかったのだが、なぜだかいまだにゲレクシスの感想を求めてこのどうしようもないブログにたどりついてしまう犠牲者が後を絶たないので、申し訳なくなってきたので少し内容を充実させてリライトする事にした。
でも、先に断っておくと再読したら面白かった、といった希望はない。
ただ、なんとなく古谷ワールドを苦笑いしながら、気がつけば全2冊がなんの前触れもなく終わる作品なのである。
さて、以下多少ネタバレ含みながらレビュー。
2017年の連載当時読んだ時に真っ先に浮かんだ感想が、
「古谷実が終わってしまったのかもしれない、次回作、もうないかもしれない」
だった。
ゲレクシス完結の2巻は、そんな憤りを覚えるほど、唐突に不思議な世界に放り込まれて唐突に物語が解決するという、まさに打ち切りというか、投げ出したと呼ぶに相応しい怪作である。
そして本作以降、連載という形では古谷実は作品発表していないので、最後の連載作品という事になる。
ちなみにイブニング連載時の最終回の編集者の柱書コメントは
「痛恨の準備不足」
そのコメントに、これ以上ないほど相応しい最後だった。
加えてイブニング最終回で予告されていた書下ろしも、物語的な意味ではほぼなし。
確か最後のページのセリフが少し削られていただけだったのと、多少キャラクターのカットが増えた程度だったはずだが、当時のイブニング本誌がもはや手元にないので確認する術がない。
で、問題のこの作品がどんな作品だったかというと、序盤の物語の引力は相変わらず抜群である。特に登場キャラの面白さと会話劇は群を抜いている。
主人公は渋い39歳のおっさん。大西たつみ。
父親が大借金をして突然始めたバウムクーヘン屋さんを若いころから手伝わされて、気がつけば40近くなってしまっていたおっさんである。

そして、そんなおっさん主人公を辛辣にからかうのが生きがいになりつつあるヒロイン「倉内ゆう子」。とにかく口が悪い。

そして、このおっさん主人公が彼女に「恋の相談」をするところから物語は始まっていくわけだが、今までの古谷実作品の定番の流れからすれば、この二人のキャラクターが、なんだかんだで掛け合い漫才しながら事件に巻き込まれていくというのが鉄板の展開だったわけで、事実、今回もそのパターンに近いものを踏襲している。
そして、くやしい事に最初の数話のこの流れが物凄く面白い。
相変わらず引力抜群の会話劇である。
しかし、だ。物語は突然劇的に動くのである。
どのように動くかというと主人公が急にこうなる。

もう、なんの脈絡も理屈もなく、こうなる。
ゲレクシス状態と呼べる状況。
そして、あとは似たようなキャラクターが出てきて、よくわからないままに物語は展開され、ものすごい勢いで唐突に最終回を迎えるのである。
連載終了以来初めて読み返したわけだが改めて色々な意味で凄かった。
ご存知の通り近年の「古谷実」作品は、ここで終わるの?と思わせるようなタイミングで幕を降ろすのだが、そんな唐突な最終回を迎えながらも、読者の心には、しっかりと感情を残すことに成功してきた点が素晴らしかったのである。
そして、その手法が最も成功していたのが、前作「サルチネス」であり、あのラストの感動は圧倒的だった。
今まで培ってきた、 「笑い」と「人生の苦味」を 見事に混ぜ合わせた大傑作だった。
サルチネス - つれづれマンガ日記 改
そして、そのテンションと期待のまま本作に踏み込んでしまった事が当時のブログ主の敗因である。まさか、こんな唐突な終わり方をするとはという感じだった。
唯一の救いは、ゲレクシスという状態に関して作中で説明がある点ぐらいだろうか。
というか、それぐらいしか救いがない。
ファンの人なら読んで良いと思うが、間違っても面白い漫画を探している人にオススメできるタイトルではないだろう。
最後に完全にブログ主の独断と偏見で考えた本作の意味なのだが、過去作品のタイトルと比較するとゲレクシスは位置づけ的にサルチネスと似た語感のタイトルに思える。
そしてネス(ness)やシス(sis)という語彙は状態を表すことが多く、その感覚からすると前作サルチネスが人間の内面における原始的・本能的な部分の発露を描くことで物語を創作していたのに対して、今回は外的要因によって人間がまったく別の存在へと変わる恐怖や違和感を描こうとしたのではないか、と。
しかし、人間の内面の狂気の発露が素晴らしい最終回の感動につながった前作サルチネスと異なり、突然の外的要因によって窮地においやられる主人公では物語的なカタルシスにたどり着けなかったのではないか、というのが今作の展開における根本的な要因ではないかと妄想した次第である。
まぁ途中の展開や会話劇は相変わらずの面白さなので、ファンの人なら手に取ってみるのも一興かもしれない。
読後メモ:不条理×会話劇
- 好き:大人×年下ヒロインの掛け合いと、古谷節が冴える序盤の会話劇。
- 弱点:理屈の置き去り感と唐突な終幕でカタルシスが薄い。
- おすすめ:古谷実の怪作・実験作を拾い読みしたいファン向け。
- 評価:2.72 / 5
レビュー執筆:mangadake(当ブログ管理人)
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※Kindleの提供状況は随時変更されます。最新の対象状況はリンク先でご確認ください。
ちなみに、サルチネスの記事はこちら。
これが個人的には古谷実作品の最高傑作である。素晴らしい。


