つれづれマンガ日記 改

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るろうに剣心

思えば和月伸宏ほどその才能を
ジャンプに枯渇させられてしまったマンガ家も
近年いないのではないだろうか。

ジャンプ不作の90年代に読み切りとして始まった本作は、
デビュー当初から他の作品とは
一線を画した名作の予感を含んでいた。


幕末に「人斬り抜刀斎」と恐れられた剣客は、
明治維新の世において不殺を誓い、
自分の贖罪の人生を歩む。


なんと素晴らしい設定だろうか。

当時多くのマンガ家は、
レトロな印象を持つ時代モノを避けていた。

けれどもこの新人マンガ家は
自分の抱える憧れの維新の時代を思う存分に描ききり、
瞬く間に若い読者の心を掴んだのだ。

これこそベテランには真似できない偉業である。

和月以前と和月以後を比較してみれば、
どれほど時代モノ、和風モノの作品が増えているか、
そのマンガ界への影響は明らかである。


こうして多くのジャンプ読者が本作に期待し、
また作者もそれに応えるようにシリーズを続け、
るろうに剣心は、
ジャンプの看板作品として長く君臨する事になった。


けれども、その栄光の代償は大きかった。

作者も単行本内で吐露しているように、
作品を創造するという行為は
自分の中からアイディアという
宝を削りだして行う行為である。

デビューしたての和月伸宏には、
まだアイディアのストックがあった。

けれども十本刀編以降の頃になると、
ネタ切れを起こし始めていることが十分にわかる。


また、その本格的なストーリーが、
少年ジャンプという舞台では仇になった。
いわゆるジャンプマンガ化である。


序盤の主人公には、人を殺しそうな、
一種、危うさがあった。

けれども、後半に入ってくるとその面影はまるでない。
「殺さず」ではなく「殺せず」の
キャラクターになってしまっていた。

もちろん、少年ジャンプという幅広い読者層を持つ作品において、
広く愛される主人公という意味では正しいのだろう。
事実、本作は売れたのだ。

けれども、当初のテーマとして持っていたはずの、
贖罪と葛藤の人生といったテーマ性はかなり減少し、
代わりに残ったのはありがちなバトルマンガだった。


個人的感想としては、
鵜堂刃衛編は歴史的傑作、
御庭番衆編が傑作、
十本刀編はジャンプ的傑作、
以降は・・・

といったところだろうか。


鵜堂刃衛の残した、

「俺を殺すと言った時のお前はもっと良い目をしていたぞ」

というセリフは本当に素晴らしい出来栄えであり、
このセリフこそが本作の深いテーマに相応しかった。

そんなセリフが似合う滅多にいない主人公だっただけに、
ジャンプ的なマンガへの変遷が惜しまれるが、
そうでなければ作品としては売れなかっただろう。
この点は大変難しい問題だ。

どちらが良いとも言い難い。

ただし、現時点においても、
未だ和月伸宏が完全復活したとは言い難い。

それはやはり、一度ジャンプ的なマンガを
描いてしまったことによる後遺症であり、
デビュー当初の作家性を取り戻すことに苦戦しているのでは、
そう考えてしまうのは、うがった見方だろうか?

是非もう一度傑作をモノにしてほしいマンガ家である。



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るろうに剣心 完全版 全22巻 完結セット  (ジャンプ・コミックス)

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