評価:4.04 / 5点
手塚治虫は60歳で亡くなり早逝の人として知られているが、本作を読むとわかる。
この人は多分120歳分ぐらいの人生を60年間で生きてしまったのだろうなぁ、と。
それぐらい、もはや情熱―――などという耳慣れた単語では表現しきれないほどの熱量をもって創作に人生をかけていたのだ。そんな思いが痛いほど伝わる傑作が本作「ブラック・ジャック創作秘話」である。
まず、知られている事としてはその異次元の創作量だ。
漫画家「小谷憲一」が作中で語っているが連載8本。完全に頭がおかしい。
なによりもそのラインナップの豪華さ。「ブラック・ジャック」を筆頭に「三つ目がとおる」や「火の鳥」「ブッダ」など後世にも名を残している傑作ばかりなのだ。

他にも例えばブラック・ジャック後期の傑作に「虚像」という作品があるのだが、この原案を何と100ページもの作品を書いた翌日からの1日半で完成させたというエピソードが紹介されている。

虚像はブラック・ジャックファンなら確実に覚えているレベルの名編であり、この作品を100ページもの長丁場の直後に創るというのは天才という言葉が追い付かない偉業である。
その他にも有名な逸話として、電話で原稿を指示する話や、手塚ファンなら必ず知っているアニメ業界への参入に伴うあれこれ、そして、手塚治虫の長男や長女といった関係者のエピソードが語られていくわけだが、やはり中でも特筆したいのはチャンピオンの名物編集長「壁村耐三」、通称カベさんのエピソードである。
第1巻から登場するこの強烈なキャラクターは、その後4巻で改めて特集されるわけだが、このエピソードが素晴らしいのだ。
編集者として手塚治虫の原稿をもらうことが初仕事となった彼は、その後も手塚番となり、後に不遇の時代にあった手塚治虫をブラック・ジャックで少年マンガの舞台に復活させる事になるのだ。

アンケートではわからなかった面白さを編集長のカベさんだけは見抜いていたと思えるこのエピソードがなんとも心憎いのである。
全5冊、どこを取っても情熱しかなく、これほどまでに仕事に熱くなっている人間が集まって作られたものが面白くないわけがない、そんな日本の漫画文化の黎明期を感じさせられる作品だった。
最後に作画担当の「吉本浩二」の画力にも触れておきたい。
彼のこの不器用ながらも一生懸命な作画だからこそ、昭和の情熱が一層映えるのである。長男「手塚眞」が作中で語るように、この絵だからこそ伝わる熱というものが確かにあるのだ。
手塚治虫がマンガの神様と呼ばれていた時代からはもう随分と年月が経過したわけだが、それでもなお彼こそがマンガ文化を創ったのだということを万人に知らしめることに成功した手塚治虫ドキュメント作品の金字塔である。
読後メモ:手塚治虫ドキュメント
- 好き:証言が積み上げる創作の熱量と速度、編集者との関係性のドラマ
- 弱点:5冊全体を通したエピソードはなく短編の連作形式
- おすすめ:創作現場や編集史に関心がある読者、手塚作品の背景を知りたい人に
- 評価:4.04 / 5
レビュー執筆:mangadake(当ブログ管理人)

