総合評価・・・3.54
さて2012年にレビューした本作を十数年ぶりに読み返してみて、やっぱり名作だったので過去記事をリライトする事にした。
以下、今までのリライトシリーズ同様にネタバレ含むので未読の方はお帰りください。
黒髪のキャプチュードという作品は1992年のコミックドラゴンで連載していた今となっては古すぎる作品なのだが、当時は今よりもさらにマイナーでほぼ存在を知られていなかったマンガである。
今でこそネットの普及でマイナー作品にも日の目が十分に当たるチャンスが出てきたのだが、本作が連載されていた90年代前半はマイナー雑誌で連載するという事はそれだけでハンディだった。
ブログ主もライトノベルを通じて角川系列に手を出していなければ本作と出会う事はなかっただろう。
作者「見田竜介」は、商業成功的に言えば前作の「ドラゴン・ハーフ」が代表作になるわけだが、マンガの質としては本作が圧倒的に優れており、これは読み逃してはいけない傑作である。
全ての生き物が聖母(マザー)から産まれる世界に漂流してしまった唯一の地球人であり、子供を産むことができる故に悪魔と呼ばれる事になる主人公キャプチュードは幼い頃から迫害され続けてきた。
けれども彼には武器があった。
本来ならば数十年の精神修行を経ねば成れないといわれる騎神召喚士(スペクトマスター)となり、精神の騎神(スペクター)を操る事ができたのだ。
迫害され続けた抑圧と反骨心という負の心を使って。
この憤懣と反骨心ゆえに主人公が強くなるという設定が、この作品の最大のポイントであり面白さの根幹なのだ。
世界における異物であるキャプチュードは闘いに勝てば勝つほど周囲から憎まれ、世界中の正義の使者が彼の命を狙う。けれども、キャプチュードは闘い続ける。
そのあたりの迫害と孤独を描いた中盤のバトルから本作がさらに面白くなるのは最終章ともいえる北の聖者スプラッシュが登場してからの展開だろう。
圧倒的な理想郷を心に描く正の存在である聖者スプラッシュのキャラクター性と、迫害されながらも自分の小さな正義を信じるキャプチュードとの対比。
これが最高に素晴らしいのだ。
また最初から最後までキャプチュードの味方として彼を支え続けるヒロイン「キャメル」の存在。
彼女に張られた伏線もスプラッシュ登場からの流れと相まって綺麗に回収されており6巻終了までは怒涛の展開と言えるだろう。
ただ最終7巻は正直な話、打ち切り的な事情もあったのか情報量が多すぎて読みづらい部分があるのは否定できない。
しかし、だ。
そんな読みづらさを吹き飛ばすほどスプラッシュとのラストバトルの鬼気迫る筆致が素晴らしいのである。
この最終戦は、個人的にファンタジー作品のバトルシーンの中で1、2を争うお気に入りだ。
そして、ラストのキャプチュードの選択。
終わりよければ全て良しといった読後感で本作は見事に締めくくられるのである。
作品全体としては途中の構成で読みづらい部分や、絵柄が独特だったり多少のエロ描写で読者を選ぶ点等の課題はあるかもしれないが、作者が描きたかったテーマは確実に本物である。
そのあたりは単行本7巻のカバー裏の作者コメントに描かれているので是非目を通してみてほしい。
改めて面白い作品だった。