つれづれマンガ日記 改

マンガをテーマに、なんとなく感想。レビュー、おすすめ、名作、駄作、etc

まんが道

藤子不二雄Aの最高傑作を挙げろと言われれば、
恐らくこの「まんが道」が選ばれるのではないだろうか。

F氏に比べるとA氏の作品は地味に見られがちだが、
そのラインナップは当然ながら並の作家とは比べるまでもない。

怪物くんやハットリくんも良いかもしれないが、
魔太郎や変奇郎、笑うせぇるすまん、といった
ブラックユーモア溢れるシリーズも個人的には捨てがたい。

しかし、やはり頂点に立つのは本作だろう。

この作品を読んでどれだけ多くのマンガ家志望者が生まれたことか。
どれだけトキワ壮での生活に憧れたことか。

苦しい時はまんが道
その影響力は計り知れないものがある。

A氏がこの傑作を生み出せたのはやはり、
人間への興味をやめなかったその人格からではないだろうか。

F氏は確かに桁外れの天才だった。
それはA氏も手塚治虫も認めるところだ。

けれどもF氏が愛していたのは物語だった。
ゆえに物語を作らせれば天才的な発想で
凡人を寄せ付けない作品を作り上げた。

しかし、その感覚は作品作りにおいては紙一重なのだ。

F氏の傑作は正直読んでいて震えがくるレベルだ。
短編「気楽に殺ろうよ」等は
とても常人が思いつける発想ではない。

比べるとA氏の発想は、失礼ながらわかりやすい。
ブラックユーモア短編集等にしても
人間の欲望が正直に描かれており読んでいて安心できる。
失礼を承知で言えば、凡人の発想といえる。
だからこそ「まんが道」が作品として成功したのだ。

恐らくF氏には「まんが道」は描けない。

この何気ない青春絵巻は、誰からも愛される
「並」の感性を持つ人間にしか描けない作品だからだ。

マンガ家になる夢を見て上京し、
時に締め切りに終われ苦しみ、
時に仲間たちと漫画談義に花を咲かせ、
時に松葉のラーメンを味わう。

そんな何気ない日常を、
なんとはなしに読み返してしまう。

それこそが本作最大の醍醐味なのだろう。
マンガ史における不朽の名作の一つである。

 

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