総合評価・・・3.62
変ゼミの作者「TAGRO」による初期の大傑作。この作品の不思議な魅力はなかなか言葉では説明しづらく、強いてあげればカールビンソンのような味わいだろうか。
迷い込んだら二度と出られないと言われる、魔の宇宙空間サルガッソー
戦争の爆撃が原因でサルガッソーに迷い込んでしまった汎銀河軍のパイロット「テル」が遭難の果てに見たものは、宇宙空間でも普通に暮らせる魔女「メウ」と、彼女が住む超小惑星に建てられた、木造モルタル2階建ての賃貸住宅「沙流我荘(=さるが荘)」だった。
国も人種も異なる不思議な遭難住人達に囲まれながら、「沙流我荘」での奇妙な共同生活が始まるのだが。。。
軽いテンポに反した重厚な伏線と、オリジナリティの高い世界観でいきおい良く読ませる序盤は、見事の一言。
キャラクター群の配置も素晴らしく、共同生活を営んでいくうちに徐々に見えてくる「アサ」と「ロロ」の距離感や、「スイ」の秘密、そして「リコ」が握る真実等、とぼけた味わいの日常を繰り返す中で徐々に物語の真相が明かされていく展開は非常に素晴らしい。
ただ残念なことに大変惜しむらくは、打ち切り的な事情とあいまって最終4巻の伏線回収が急展開すぎる事だろうか。
正直、文字と展開が早すぎて話が頭に入ってこない。もっと尺があれば良かっただろうに、と思う点が多々見受けられる最終巻だった。
ただ、それらの構成の問題や打ち切り展開の強引さを吹き飛ばしてくれるのが、最後の最後までお世話になる「四畳半」の世界観なのだ。
主人公「テル」が最後にこのキーワードに帰ってくる事で、魔女の契約の秘密と合わさって、強引な伏線回収以上に、爽やかな読後感を読者に与えてくれる。やはりどんな打ち切り作品でも、未完より完結しているほうがずっと良いのだという事を感じさせてくれるラストだろう。
その意味で最終4巻の帯コメントは見事。
こういった作品の魅力を増幅させる「帯」の仕事は、今後のデジタル化の流れで徐々に消えて行ってしまうのだろうなぁ、と寂しい気持ちにさせられた。
ちなみに、変ゼミのようなグロさはまったくないのでご安心を。
スペースオペラ好きには、この全4冊を是非お勧めしたい。