残念ながら本作を読まれた事がない方とは、
マンガの話をする気にはなれない。
説明不要の大傑作だ。
思えば手塚マンガは、普通のマンガとは違う。
宮崎アニメが普通のアニメと区別されるように、
手塚マンガもまた、普通のマンガと区別される。
その壁はやはり作者の持つ哲学の深さだろう。
本作における主人公ブラック・ジャックの
人間に対する哲学は計り知れなく深い。
皮肉屋ながらも、深い人間愛を持つキャラクター性は、
円熟期を迎えたベテランにしか描けない人物像だ。
その意味では、さすがに手塚治虫の名を
不動のものにしただけのことはある。
登場する名言は数え切れない。
泣かされた場面も数知れない。
人の命を扱うという重たいテーマを、
少年漫画としてわかりやすく面白くする為に、
設定されたブラック・ジャックのキャラクター。
無免許で法外な医療費を請求するが、
その手術の技は神の如き。
こんな魅力的な設定があるだろうか。
人の命と金の重み、その目方は誰が決めるのか。
そんな事を考えさせられる素晴らしい作品だ。
1970年代という非常に古い時代に作られた本作と比較して、
最近の医療マンガは、単純に医療知識の解説マンガに
成り下がっている点は悲しい限りである。
医療現場はかくも人間を深く描ききれる。
本作はその事を物語っている。
巨匠の志を継ぐ作品に出会えることを願う。
最後に、この不世出の天才マンガ家が残した
言葉を付け加えておく。
「医者は生活の安定を約束していた。
しかし、僕は絵が描きたかったのだ。」
医師にもなり得た手塚治虫は、結局のところ、
どちらもマンガの世界で実現してしまったのだ。