総合評価・・・3.82
恐怖短編やSF短編といった作品群が大好物のブログ主なわけだが、近年の短編オカルト作品の中では、最もお気に入りなのがこの作品。
インターネット黎明期の2003年頃から原作者「ウニ」が2ちゃんねる掲示板等に投降した一連の原作小説がコミカライズされた本作だが、作画担当の「片山愁」の美麗でいて、そしてどことなく陰のある抜群の画力と相まって素晴らしい作品に仕上がっている。
本作の持つ魅力というのは典型的なオカルト作品のそれとは少し趣が異なる。
他のオカルト作品のように気持ち悪さや震えがくるような恐ろしさを単に呼び起こすというよりは、今まで語られてきた各種の都市伝説や怪談を、別の角度から切り込むことによって、新しい哲学を産み出したところが肝なのである。この独特な語られ方の物語をマンガに再現した「片山愁」の腕前は凄い。
また、登場するキャラクター群も魅力的で師匠と僕という一連のシリーズの主人公に加えて、「京介」や「みかっち」といったオカルトサークルの登場キャラクターや、重要なメインヒロイン「歩くさん」の存在感も抜群で、オカルト短編を描いたマンガの中でも上位に入る存在だろう。
さて、ここからは少しネタバレを交えながら作品内容を振り返ってのレビュー。
師匠の失踪という物語の結末が明かされる「師事」から始まる本作だが、1巻でやはり素晴らしいのは第5廻の「歩くさん」だろうか。とにかくこのキャラクターの存在感は反則で、最終巻までのほぼ全ての物語で面白いエピソードを独り占めしている。中でも5巻収録の「追跡」や6巻収録の「すきまの話」が特に素晴らしく、一読をお勧めしたい。
師匠の活躍という観点からいくと、2巻収録の「黒い手」や4巻収録の「人形」や6巻収録の「四つの顔」等がお勧めの名作なわけだが、独自の哲学という観点からいくと、やはり、5巻収録の「跳ぶ」は外せないだろう。これは、原作のオリジナリティも凄いし、それをマンガの形で紙面に落とした漫画家の技術も凄い。大傑作である。
そんな心強いはずだった師匠の存在が徐々に崩壊していく7巻は、原作者の「ウニ」も新たにエピソードを書き下ろしたという「異物」から始まって「失踪」「交差点」の三部作で完結するのである。
というわけで、7冊どの収録作品も面白い本作なわけだが、唯一惜しむらくは、当初から予告されていた通りの師匠の失踪という完結の仕方自体は良いのだが、その失踪の仕方が、6巻に収録された「四つの顔」とあまりに酷似してしまった事だろうか。
「四つの顔」のエピソードがなければ、もう少し楽しめたはずの最終章が、最終巻は中盤までを読むころには、どのように終わるのか、半ば先が読めてしまった点だけが残念ではあった。
ちなみに原作「ウニ」のネット小説では、師匠の師匠にあたるキャラクターや、エピソードなどもまだ色々とあるようなのだが、その辺りは未読なので、あくまでマンガ単体での評価となる。
作画担当の「片山愁」は魅力的な描線を描く作者なので、この作者単体の別の作品も是非読んでみたいが、今のところは作者単体での新作はなさそうである。
最後に、完結後にアワーズに掲載された「迷離都市」に関してだが、Kindle版しか存在しないので仕方なく電子書籍を別で購入したが、こちらはまぁ、よくも悪くも一つの短編作品。完結後の何か、といったものは一切ないのでその点は期待しないほうが良いだろう。
オカルト短編が好きな方には間違いなくお勧めできる良作である。