つれづれマンガ日記 改

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アイ’ムホーム

(2012年評)

一度読んだら忘れない作品というものがある。

私が石坂啓の最高傑作と捉えている本作は、
その顕著な例ではないだろうか。

記憶喪失の主人公が家に帰ると
「仮面」をつけた家族が待っている。

この説明だけで、
本作を読んだことがある人ならば必ず覚えているはずだ。

家族の心が見えないことを顕したあの「仮面」は、
マンガ史の抽象描写の中でも特筆すべき表現だった。
無論、抽象描写自体が上手な作家はたくさんいるが、
画力に頼っていないという点を考慮すると最高傑作かもしれない。

また、作品構成も素晴らしい。
本作を読むと私はいつも、山田玲司の話を思い出してしまう。

「Bバージン」の作者山田玲司は、
売れない新人時代に知人からアドバイスされる。

山田さん、正面からじゃなくて後ろからナイフを刺したら、と。

およそ描きたいテーマが強いマンガ家ほど、
そのテーマが前面に出すぎて
マンガがエンターテイメントである事を忘れてしまう。

本作は、人間が「ただいま」と言って
帰る居場所について考えさせられる作品だ。

その事を真正面から訴えられても
読者は面白くもなんとも無いだろう。

けれども、

過去5年の記憶を喪失した主人公
5年前に離婚した自分の家に自然と帰り着いてしまった第一話。
現在の自宅に帰宅すると、そこに待っているのは、仮面をつけた家族。

これでもか、というほど続きが気になる作品に仕上がっている。
これがエンターテイメントの力だ。

石坂啓は昨今、言論を中心に活動することになり
マンガは休筆のようだが、勿体無い話だ。

これだけ後ろから刺せるマンガ家なのだから、
マンガで世の中に影響を与えて欲しい。

無論、彼女の言論そのものの賛否は私にはわからないので、
その点はご理解頂きたい。

この作品を作れるのだから、マンガ家としては間違いなく
才能ある人物なのだろう。

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