つれづれマンガ日記 改

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放課後保健室

物語、絵やデザイン、キャラクター、構成、オリジナリティ
全てが圧倒的に高いレベルで完成されていて、
一切の隙がなく全10冊で完結する「水城せとな」の、
いや2000年以降における最高傑作の一つがこの作品である。

この作品ほど面白さに対して知名度が低い作品は少ない。
不遇の大傑作といえるだろう。

ただ、知名度が高まらない要因もよくわかる。
それは、このマンガを読む為の読者側のレベルの問題なのだ。

まず、上半身は男性で下半身は女性という特異な主人公を
第一話冒頭から切り込む事に始まって、
本作では相当ストレートにジェンダーの問題に踏み込んでいる。
この辺りは既存の女性向けマンガを多読している層には抵抗がないだろうが、
少年マンガ育ちの読者にはハマらないだろう。

反面、主人公がその性別故に男性と女性との境目を渡り歩き、
カップリング相手の性別も動いてしまうため、
主人公に自分を投影して、ロマンスファンタジーを求める、
少女系読者の心にも刺さりづらい。

この辺りで既に少年、少女層が獲得できない。

次に多少大人の読者層を想定してみるが、
各登場キャラクターのトラウマを具現化して闘う
放課後の保健室という設定自体は、男性マンガ読者層の大好物なのだが、
水城せとな」が最も得意とする繊細な精神描写の素晴らしさが、
この層にはハマらない。萌え系の絵柄でもないので尚更である。

反面、リアリティや恋愛の精神描写を重視する女性系マンガの読者層には
これらのバトル展開やファンタジー要素が不要となってしまう。

結果として、これらのジャンルを総合的に読みこなしている
マンガ玄人だけが、この作品のファンとしては残ることになるのだが、
非常に読者層が薄いエリアでもある為、知名度に繋がらないのである。

何と残念な事態なのだろうか。

しかし、この作品の面白さを知らずにいる事は
勿体ないとしか言いようがない。

稀代のダークファンタジー作品として、
絶対にオススメしたいマンガの一つなので、
我こそは、というマンガ玄人は必ず目を通すべきだろう。

色々なマンガを読んでいれば読んでいるほど、
この作品は面白いとわかってもらえるはずである。

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