異論は多数あると思われるが、
個人的には「月光条例」が、
藤田作品の中で一番好きかもしれない。
まず、設定が素晴らしかった。
創作者なら誰もが二の足を踏むであろう、
お伽噺という世にも困難なテーマを舞台に、
よくぞこれだけの物語を作り上げたことか。
次に、物語が素晴らしかった。
特にアラビアンナイト編終了の21巻の語り。
「そのページが今、するすると開かれてゆく」
これほどマンガの続きに期待した展開も久しぶりだった。
あの興奮が忘れられない。
そして何よりも、主人公が素晴らしかった。
岩崎月光という、誰にも省みられなくても、
一人、自分の正義を貫く男に何度泣かされた事か。
ある意味誰もが心の中では簡単に描ける、
少し皮肉な、それでいて心優しい主人公像を、
どうして現代漫画家の多くは描くことができないのか。
それこそが、「藤田和日郎」と
並の漫画家を隔てている一線なのである。
また、付け加えるならば、
著作権の都合で主人公の設定を変えたという
恐ろしい致命傷を負いながらも立て直した
大ベテランの力量に感服する。
それにしてもこのラストのなんと見事な事か。
二次創作のようだったと馬鹿にした書評も
ネット上では見受けられるが、とんだ勘違いだ。
こんな見事な大団円を、
二次創作の一言で切り捨てられるなら、
もっと昔に、どこかの凡百の漫画家が描いているはずだ。
これは、創作者なら誰もが一度は試みたい、
それでいて、恐れ多くて描けない見事なラストなのだ。
その大胆さと綺麗さに物語の作り手ならば、感動しないわけがない。
単行本最終巻の書下ろしも、見事だ。
レビューを書いているうちにまた読み返したくなった。
名作とは、このような作品のことなのだろう。