つれづれマンガ日記 改

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鬼才の描く日常 ~ それでも町は廻っている

総合評価・・・4.72



11年続いた日常系マンガの王者が、最終16巻でついに完結した。感無量である。

石黒正数」という作者は鬼才であり、「外天楼」等の短編集でもその実力を発揮しているのだが、いかんせん少し鋭すぎる部分があり、それ故に毒のある作品を創る。

しかしそんな才能を丸子町商店街という舞台の登場人物達が、見事なまでにオブラートに包んだ結果、他に類を見ない日常作品に昇華された。

それが本作「それ町」なのだ。


テンプレート的なマンガが多くなってしまった現代において、老若男女がここまで活躍する作品は珍しく、作中のキャラクター1人1人に愛着が持てる内容になっている。この辺りは、マンガ家には珍しく、充実した青春を送っていたという作者の幅広い人間観察眼が発揮されている事がわかる。

そして登場キャラクターの幅が広いゆえに物語の幅も非常に広い。

学園作品として見れば主人公の「嵐山歩鳥」を中心に、石黒作品の代表的なキャラクター「紺先輩」との掛け合いや、同級生の「タッツン」との友情物語。

作者の代表的なキャラ造形となる紺先輩(廻覧板より引用)




家族の観点からは嵐山家の面々が登場する一連の物語や、弟「タケル」と「エビちゃん」の恋愛物語。

みんな大好きエビ×タケ回(14巻より引用)



商店街を軸に考えると、シーサイドのメイド長を筆頭に、八百屋、魚屋、クリーニング屋の3バカが集まる商店街の面々とその物語。

類を見ない商店街コメディ(2巻より引用)





そして、作者得意のSF奇譚と最後の謎の中心人物となる、もう一人の主人公「○○ちゃん」


どのエピソードを切り取っても隙が無く面白いのである。

また、それだけでも十分な事に加えて、この漫画の評価をさらに高めているのは本作の構成である。

連載における最終129話「少女A」が思ったよりもあっさりしているのも当然で、ファンの方ならご存知の通りこの作品は、主人公の高校3年間の日常を時間軸を入れ替えて連載する「時系列シャッフル」という恐ろしい実験を貫いた作品なのだ。


そして、その実験が見事に成功したことは、最終話の一話前から最終話への繋がりで
見事に証明されていた。

この辺りの一連の流れを理解する為には、同時発売された公式ガイドブック「廻覧板」は必読の一冊で、全ての話の時間軸と前後関係が描かれたガイドブックには作者の異常なまでの本作への愛情が感じられる。

また、そんなマニアックな公式ガイドブックに手を出さなくても良いように、単行本16巻に追加されたエピローグのおまけマンガがあまりにストレートに感動的な点も心憎い。このエピローグの為だけにでも絶対に最終巻を買う価値がある。

マンガを構成する「ストーリー」「画力」「キャラ」「構成」「独自性」という5つの要素全てに穴がなく、SF奇譚からストレートな青春までを複雑な構成と様々なキャラクターを織り交ぜながら見事に完結まで描き切った本作は、ここ十数年で最高レベルの傑作として称えられるべきだろう。

必読の名作である。

(公式ガイドブック廻覧板の裏表紙より引用)



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