画力でしか表現できないマンガもある。
そんな事を感じさせてくれる数少ないマンガ家
それが、「谷口ジロー」だ。
「神々の山麓」では、その圧倒的な描写力から、
登山の世界を描き出し、
「孤独のグルメ 」では、サラリーマンの
何気ない日常をこれ以上ないほど味わい深く描く。
そして、本作はそんな谷口ジローが
珍しく原作抜きで描いている作品である。
自分の人生の行き場を見失い、
流されるままに田舎に辿り着いた
中年男性。
そして、母親の墓参りをした時に、
不意に訪れる違和感。
瞬間、世界が回転し、
彼は中学生の自分に戻る。
この辺りの描写が、もう
恐ろしく上手い。
世界が回転している様が、
急に若返った体を操りなれない視点が、
全て絵の力で再現されている。
タイムスリップマンガはやまとあれど、
リアリティまで紙面に再現できたマンガ家を
私は他に知らない。
物語自体も味わい深く、
最後まで読まずにはいられない傑作。
画力があるという事は、
かくも作品の奥行きを広げるものなのだ。