つれづれマンガ日記 改

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うさぎドロップ

(2012年評)
最近やっと最終の10巻が発売されたのでレビュー。
とはいっても10巻は番外編で、物語としては
9巻目でほぼ決着が着いている本作だが。

かなりの有名作品なので、
いまさら説明不要と思われるが、簡単なあらすじを。

訃報を受けて祖父の家を訪れた「ダイキチ」は、
一人の女の子「りん」に出会う。

祖父の隠し子であった「りん」は、
身寄りが無く施設に預けられようとしていた。
そんな「りん」を男手一人で育てようと決意する「ダイキチ」

そんな二人の不器用な親子関係を中心に
物語は進んでいく。


本ブログは、ネタバレをしない事を前提にしているが、
本作に関してはネタバレをご勘弁頂きたい。
この作品の価値や評価は全てそこで決まっているからだ。


以下、ネタバレ含む。

 

 

 

 

 

 

 


結局のところ、本作の全ては、
「りん」が「ダイキチ」の恋人になるという
ラストに集約されている。

そして、その賛否両論の激しさは、
9巻のアマゾンレビューで一目瞭然である。

 

「否」論者の中では、やはり根本的に親子が恋人になるという
展開が受け入れられない方や、「ダイキチ」側から「りん」への
心情の描かれ方の少なさを問題視している方が多い。

その辺りは至極当然であり、
作者自身が、「ダイキチ」側の心理を
第二部では描かないようにしていた、
という事が10巻のあとがきで語られている。

宇仁田ゆみ自身はこのラストで決めていたとの事なので、
あとは、どうラストに向けて物語を動かすかがポイントだったのだが、
その点を、伝統的な女性マンガの手法となる、
「りん」視線だけで持っていってしまったのは、
やはり読者にとっては受け入れにくかったのだろう。


また、私が考えるに、この賛否の嵐の原因として、
作者の想定外が2つあったと思われる。


1つは、当初の想定より本作の男性読者が増えていた点だ。
男性視点からのほうが、より本作のラストは受け止めづらい点がある。


2点目は、「ダイキチ」というキャラが予想以上に
読者に愛されてしまった事ではないだろうか。


当初から「ダイキチ」と「りん」を結ばせる予定だったのならば、
もう少し、「ダイキチ」というキャラクターの好感度を減らすべきだった。
自分の育てた娘と付き合ってしまうかもしれない精神性を、
もう少し作中で展開しておくべきだったのだ。

ところが、この「ダイキチ」というキャラクターは違った。
独身30代で特に2枚目でもない。
人生で得をするようには見えないけど、
平凡だが、自分のルールを守って真っ直ぐ生きている。

そんなキャラクターは、なかなか最近のマンガでは、
特に青年誌ではお目にかかれない。

ゆえに、このキャラクターへの
読者の好感度はひたすら高かった。


昨今の、「オタク主人公のもとに、若い女の子が同居する」タイプの、
一種嫌悪感を感じられても仕方が無い作品群と、
本作が一線を画していたのは、確実にこの「ダイキチ」という
気持ちの良いキャラクターの存在に他ならない。

それ故に、多くの読者が、この「侠気」ある人物が、
自分の娘とくっついてしまったという展開に嫌悪感を抱いたのだろう。

この事は本作への期待の高さへの裏返しに他ならない。

その辺りの「オタク」作品とは違う、「別の形の家族愛」
という答えが本作には求められてしまったのだ。


「売れてしまう」という事は、それだけ
普遍的な価値観を求められる事に他ならず、
故に本作のラストは多くの非難を受けた。
マイナー連載として終わっていれば、
ここまで厳しいレビューもなかったのだろう。

しかし、「宇仁田ゆみ」は
家族モノという意味では既に
「よにんぐらし」を創作しており、
また別の観点での家族の在り方を作品として
提示したかったのだろうという点を、最後に付け加えておく。


「売れる」という事の難しさを、
改めて考えさせられる作品である。

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